「たまゆらん」から「TAMAYURAN」へ ― 「看板猫のいるカフェ」として2012年のオープン以来たくさんの人たちに愛されてきた「おうちごはんcafe たまゆらん」。約1年の休業をはさんで、まもなく移転再オープンする。場所は平安神宮からほど近い、東山三条。新たな店舗は防空壕の残る築130年の京町家だ。
たまゆらんさんについては、昨年10月にもインタビューさせていただいた。前回の記事では、左京区浄土寺で営業していた前店舗のことや、お店を閉めることになってしまった経緯、そして、そこから移転・再オープンに至るまでのストーリーを詳しく伺っている。
この記事の公開後にスタートした、新店オープンを目指したクラウドファンディングはSNSで大きな反響を呼び、まいどなニュースやYahoo!ニュースにも取り上げられた。最終的に、支援者の数はなんと1,000人を上回り、支援金額の合計は約1,027万円と最終目標金額を達成することができた。店主・大村さんは新店舗の改装やクラウドファンディングのリターン品準備に奔走している。
そんな、たくさんの人たちの想いを引き継いで、猫たちとともに新たなるスタートを切ろうとしている「おうちごはんcafe たまゆらん」改め「サヴォンズ ベイク ファクトリー TAMAYURAN」の店主・大村さんに、クラウドファンディングを終えた感想や新店舗のことなどを伺った。
◎ プロフィール
■ 大村 明江(おおむら あきえ)
京都生まれ大阪育ち。10代のアルバイトの頃から数々の飲食業に従事し、炭火焼肉牛角ではエリアを受け持つスーパーバイザーを担当。それらの経験を経たのち、2012年7月には『おうちごはんcafe たまゆらん』をオープン。そして2021年10月、たまゆらんの移転に伴うクラウドファンディングを行い、1,000人以上の方からの支援を受けて目標金額であった1,000万円を達成した。(→ Twitter / Instagram)
「トータルしてうちらしいクラウドファンディングができた」― およそ2ヶ月間にも渡る大村さんの挑戦
「トータルしてうちらしいクラウドファンディングができたのではないかな」 ― 今回の挑戦を、大村さんはそう振り返る。クラウドファンディングは10月29日から12月22日までのおよそ2ヶ月間と、一般的なプロジェクトよりかなり長めの期間をとった挑戦であった。前回のインタビューのときから大村さんの挑戦を応援していたぼくにとって、2ヶ月間もの長いクラウドファンディング期間中、ほぼ毎日CAMPFIREの活動報告やTwitterを更新し続け、リターン品の追加も複数回行うなど、精力的に活動をしていた大村さんの姿がとても印象に残っている。
そして、それ以上に印象的だったのが、“大村さんがこれまでに積み上げてきた信頼の大きさ” だ。寝る間を惜しんで活動し続ける大村さんの熱意に応えるように、常連のお客さまや保護猫活動を通じて出会った方たち、さらには今回のクラウドファンディングを通してたまゆらんのことを初めて知った人たちまでもがSNSを通じて大村さんにたくさんの応援の声を届けていた。SNSは連日賑わいを見せ、そのおかげもありこれだけの長期間のプロジェクトでも新規支援者ゼロの日は1日もなかったという。
特にクラウドファンディング終了間近になると、その熱量はさらに高まった。12月15日時点では550万円ほどだった支援金額も急激な伸びを見せ、最終日の終了時間目前に1,000万円の最終目標金額を達成した。大村さんも、「最後の1週間になると、私以上にお客さまたちが『絶対達成させる!!』って頑張ってくださって……。みなさまが支えてくださって、最後の数日間のことは本当に忘れられません」と語っている。最後の数日間の伸び方には、CAMPFIREの担当者さえも「奇跡的だ」とびっくりしていたそうだ。
そんなクラウドファンディングの様子を見させていただいている中で、ぼくが感じた「大村さんが積み上げてきたものの大きさ」。そのことを今回のインタビューのなかで伝えてみると、「全部猫たちが私に授けてくれたんですよ。猫すごい。ほんとその一言です」と、多くは語らなかった大村さん。
しかし、直接は口にしなくても、支援してくださった方たちにはCAMPFIREの活動報告を通してその心の内をこう書き残してくれている。
“よく、人生を変える出会いがある、と言われます。
私にとっての人生を変える出会い。
それはサヴォンをはじめとした猫たちとの出会い、そして里親様たちとの出会い、お店を理解し支えてくださる皆様との出会いです。”
また、大村さんは次のようにも記している。
“今回の挑戦で改めてわかったこと。
2012年にオープンしたお店で猫たちと一緒に1匹、また1匹、ときには兄妹猫で、と繋いできたご縁。
そのご縁は猫たちがずっとのおうちに行ったことで終わったのではなく、そのままお店にもつながっており…
小さな子達だった猫さんたちはずっとそのご縁の糸を紡ぎ続けてくれて、赤く細かった糸を強く太くちょっとやそっとじゃ切れないしめ縄のように素晴らしいものに紡いでいてくれた事。
お店のオープン前から何もわからないまま里親様に繋いでいた猫たちとのご縁。
それはそれはたくさんの子達を送り出しました。
個人でよくこれだけの頭数を繋いでいたものだと今となってはびっくりします。
お店を開いてからはとくに年間100匹以上の年もあり、どうやってこんな数になったんだ?!とびっくりするばかりです。
それもこれも、看板猫として頑張ってくれていたうちの子たちの存在があり、縁あってうちに来てくれた子達がずっとのおうちとのご縁を見つけ、家族として迎え入れてくれた里親様たちがいらっしゃった。
そして、お店に猫たちがいる事、猫たちを優先するお店の営業スタイルを受け入れ理解し支えてくださる皆様がいらしたからこそ…
メモ程度のものしか残っていない状態から、ざっくり換算しただけでも800匹以上…
その数字がいま、クラウドファンディング支援者様の数字に表れている気がしてなりません。”
今回のクラウドファンディングは、大村さんが8年間の年月をかけて少しずつ積み上げてきたものが形になったもの。そんなことを実感するとともに、みんなで目標達成を本音で祝福できて、自分ごとのように喜べる。そんな、クラウドファンディングが本来あるべき姿を体現したような挑戦だったように思う。
「お客さまたちに “やわらかい柵” を与えて貰えた」― クラウドファンディングを終えて
クラウドファンディングを終えてみての感想を聞いてみると、「やることはたくさんあるけど、いまは少しほっとした」と大村さん。当時のプレッシャーについて、こう振り返る。
「やっぱり、プレッシャーはすごかったですね。始める前は『大丈夫かな。もしひとりも支援してくれないとかだったらどうしよう』という不安がありました。本当はみんなに何とも思われてないってことが可視化されちゃうんじゃないかって……。でも実際にクラウドファンディングが始まっていろんな方々が応援、ご協力してくださり、支援金額がどんどん増えていくのをみていたら、今度は『この重みに応えられる器が自分にあるのか』って、また違うプレッシャーがすごかったです。」
でも、“プレッシャー” は必ずしも悪いものではない。大村さんはこう続ける。
「でも今回のクラウドファンディングを通して、お客さまたちに “柔らかい柵” を作って貰えたような感じがするんです。もともと、今回の移転・再オープンはお客さまたちの『リニューアルして欲しい』という声に応える形で決意したんです。それからはあれやこれやと忙しい日々を送ってきたわけなんですが、今回のクラウドファンディングを終えて少しほっとしたいま改めて考えてみると、心のどこか奥の方には『別にやらなくてもいいんじゃないかな。サヴォンちゃんももういないし……。いざとなれば、どこか働きに出たっていいじゃん。』という気持ちも、どっかにまだ残ってたと思うんです。
でも『そうじゃないよね』って、『あなたのいるべき場所はここだよね』って、リピーターさんたちはもちろん、今回のクラウドファンディングでうちのことを初めて知ってくれた方も含めて、支援してくださった方たちみんなで “柵” を作ってくれたんだなって思うんです。それは『ここから出るな』というものじゃなくて、ぶつかっても痛くないような、『ここにいたらあなたは良くなるよ』というような、そういうベビーゲートみたいな暖かい柵を作って貰えたという安心感がいまあるんです。」
そんな大村さんの気持ちは、クラウドファンディング終了翌日の活動報告のなかでも現れている。
“1000人を超える方からの1000万を超えるご支援。私にとってもお店にとってもとてもとても大きな意味のある素晴らしいことです。1000万という表記金額ではなく、もっと大きく果てしなく温かい消えることのない1000万円。
それは金額というだけではなく、皆様の気持ちとしてずっとずっとお店に残る大切なもの。
新しく始まるTAMAYURANは大きな大きな温かい皆様の気持ちと共にオープンへと向かいます。
プレッシャーは希望に変わり明日からのやるべき指標を照らします。
皆様のご期待に応えられるよう、今後もこちらの活動報告でご報告させていただきながら、時には迷い、悩み、笑い、歌い、猫たちと共に邁進してまいります。(中略)
皆様、本当に沢山のご支援、ありがとうございました。”
そんな、大村さんの大きな挑戦は昨年の12月22日で幕を閉じた。しかし、大村さん自身が「クラウドファンディングはゴールであってスタート」と語っている通り、本当の挑戦はむしろここからだ。
「たくさんの人たちから、たくさんのものを引き継がせて貰ってできたお店なんです」― 改装工事と新しい店舗について
改装工事は、新型コロナウイルスによる品薄や材料代の高騰などの影響を受けて予定より遅れはしたものの、1月中に完成することができた。取材当日も細かいDIYや防空壕のインテリアなど、まだ残っている部分を進めている最中ではあったものの、完成形にほぼ近づいている。
「一番大変だったのは、工事も終盤になっての防空壕の水漏れでしたね。もう掃除もやって、機材や食器も入れて、食材も入れていこうかって段階でしたから、あれはショックでしたね。その前にも水漏れ対策はしていただいてたんですが……。わかってはいましたけど、やっぱり京町家の改修は蓋を開けてみないとわからないことだらけなんです。
最終的な改修代も、最初の概算見積もりより2倍近く、約700万円になりました。クラウドファンディングでは改修代を550万円としていましたが、結局のところご支援いただいたお金はリターン品の準備と改装代でほとんど全部といった具合になってしまいました。
でも、700万円はかかってしまいましたけど、それだけのことしていただいてるんですよ。たとえば、収納が足りなかったぶん棚を追加して貰ったりもしましたし、細かい無理難題をかなり聞いていただけました。予算の問題もありますし、空き家バンク京都さんじゃなかったら私の要望に応えて貰えなかったと思うんです。トラブルがあったときも色々フォローしてくださいましたしね。」
前回のインタビュー記事でも掲載した通り、新しい店舗となるのは築130年の京町家。大家さんが工務店に改修の見積もりに出した際は「諦めた方がいい」とまで言われた物件だ。そして、そんな歴史の重みを感じるこの店舗で引き継ぎ残していくのは、防空壕や京町家だけじゃない。
「この時計と電気とテーブルの足は、西陣で町家猫カフェをやられていた京都西新キャットアパートメントコーヒーさんがお店を閉めることになってしまい、引き継がせていただいたものです。それにこの水屋箪笥は、お客様のCHOKOさんから『私は東京に出て残してきちゃったから、この子を使ってあげて』と譲り受けたものです。」
「うちは、いくつもの出会いや偶然が重なって、この歴史ある京町家を引き継がせていただいています。クラウドファンディングでみなさんがご支援してくださったおかげでお店の外見ができて、中身も中身で繋がりのある人たちからさまざまなものを引き継がせて貰ってできているんです。
そんな新しいTAMAYURANを、これまで通り『猫達のご縁をつなぐ場所』として、そしてこれからは『人をつなぐ場所』や『歴史や人の想いを引き継ぎ守っていく場所』としても、いつまでも続けていきたいです。」
CHOCO(@CHOKO122 )さんからお店で使って、とお声がけ頂いた水屋箪笥。
— TAMAYURANなかの人の独り言 (@cafe_tamayuran) January 17, 2022
ここに置く、と決めていた場所にピタッと収まりました!
サイズも測ったようにぴったり!
この上は今おうちにいるサヴォンちゃん(骨壷以外)を移動する予定。
水屋箪笥と一緒にお店を見守ってもらいます✨😊✨ pic.twitter.com/WZp2Y1JmVO
▲ 旧たまゆらん公式Twitter(現大村さん個人アカウント)、2022年1月17日の投稿。
「続けていくこと、先に繋いでいくことが一番大事なことだと思う」― 大村さんの想いと今後の展望
そんな、「繋げていくこと」や今後の展望に関して、大村さんは次のように語っている。
「お客さまたちやクラウドファンディングでご支援くださった方たちのためにも、このお店をちゃんと続けていくことが一番大事なことだと思うんですよ。いまって、オープンしてもいつ来れるのかわからない世の中じゃないですか。『あれから5年経って、やっと京都まで行けるようになったけど、もうお店なくなっちゃってたよ』とかじゃなくて、10年後でも20年後でも、安心して来て頂けるような体制づくりをしていきます。
以前のお店では、私が体調悪くなって手術してっていうこともありましたけど、これからはきちんと定期検診にも行くし身体もケアしながら長くお店続けるようにしようって思いますし、もっと長く続けられるように、後継者育てにも早いうちから取り組んでいくつもりです。
それにお店のことだけじゃなくて、焼き菓子の通販ももっとお客さまのご要望に応えられるように人を増やして仕組みづくりもしていきたいですし、猫たちの保護や愛護の観点からもずっと携わっていけるようなお店であれるようにソフト面もハード面も、整えていく必要があると思うんです。
通販で言えば、このお店は広くないですし、いずれは焼き菓子工房を別で用意したいと思ってるんです。従業員の雇用も生めますし、通販で受注できる数も増やせますし、1年後、2年後、3年後になるかはわからないですけど、それはぜひやりたいですね。
猫のことも、自分たちがやるだけじゃなくて、ここをきっかけに『保護を始めたんだよ』とか『関心持ったんだよ』って人がひとりでも増えて、先に繋がって欲しいなと思いますし、そうできるようしていきたいなって思っています。
ほかにも、このお店とは別に『保護猫のスペース』みたいなものがあってもいいと思うんです。『たまゆらんの毎日譲渡会』じゃないですけど、そこに来れば毎日譲渡会が行われているような場所があったらいいですよね。
すぐに大きなことはできなくても、コツコツやっていけばできることはあると思いますし、自分のできることをやっていきたいです。」
また、クラウドファンディングのなかで「実現したいこと」と挙げていた子ども食堂も、コロナの様子を見ながら始めていくつもりだと大村さんは話す。
「お腹いっぱい食べれたら、人は笑っていられると思うんです。そこだけでもなんとかしたいなと思っていて、お弁当をお渡しできるようにと考えてます。子どものお弁当ってどんなのがええんやろって思いながら、タコさんウインナーと、だし巻き卵とって笑
それに、子どもたちにいろんなもの食べて欲しいなって思うんです。いまの若い子の中には、ほとんどユニクロしか着たことがなくて『ユニクロが好き』って言ってるような人も多いと思うんです。それって、ハイブランドも着たうえで『ユニクロはいいよ』って言うのとはぜんぜん違うじゃないですか。だから、せめて食べ物くらいはいろんなもの食べて欲しいし、そういうきっかけを持って欲しいと思うから……。
『菜の花食べたことない!なにこれ苦い!』とかって、そんなお喋りができるような場所にしたいと思うんですよ。」
「クラウドファンディングはゴールであってスタート」―TAMAYURANの第2章、まもなくスタート!!
まもなく新たなスタートを迎える「おうちごはんcafe たまゆらん」改め「サヴォンズ ベイク ファクトリー TAMAYURAN」。メニューや営業時間も前の店舗とは変更され、新たな挑戦となる。
一度は2022年1月22日に静かにオープンしたものの、新型コロナウイルスによるまん延防止措置が発令されたため、府の要請に協力する形で27日から臨時休業となった。気持ちよくお客様をお迎えできるのはもう少し足踏みの状態となっている。
「クラウドファンディングのゴールって、ゴールであってスタートじゃないですか。それでいまスタート地点に立たせて貰えたんだけど、情勢的にスタートし切れないといういまの現状は歯痒いですよね。ほんとに、お待たせしちゃって申し訳ないです。そしてまだお待たせしてしまうことが心苦しいです。
でも、安心してずっとお付き合いできるお店でいたいなって思うんです。このコロナ禍はまだまだ長く続くだろうし、インフルエンザのリレンザやタミフルみたいな治療薬が出てくるまで油断できない状況のままかも知れません。
私としては、猫の日・2月22日までにはまん延防止措置が解除されて、気持ちよくお客さまをお店で迎えていたいんですけど、無理して日付を優先するってしたら、お店にとってもよくないことになっちゃうと思うんです。もしまん延防止措置のなかオープンさせて、全国から支援してくださった方がうちに来るために京都に集まり、コロナで倒れてしまったりすることがあったりしたら、私はお店を続けられないと思うんです。いまはまだお互いに頑張れることを頑張っておいて、もう少し安心できるような状況になったときに笑って会えるほうが尊いことなのかなって思うんです。
だから、いまの時点では3月7日から再オープン予定としていますが、状況によってはさらにずれるかも知れません。長くお待たせしてしまって本当に心苦しいのですが、必ずスタートさせます。もう少しだけ待っていてください。そのぶん私も、開店前にもっと良いお店にするまでの期間をいただいたと思ってできることをやったり、リターン品の塩バタークッキーの缶を既製品にシールではなくてオリジナル缶にバージョンアップしたり、待たせてしまったぶんできることをしていきます。」
もうまん延防止措置明けの再オープン準備はできているが、実際にぼくたちがお店に行って大村さんや看板猫たちに会えるのはコロナの感染状況次第。あともう少しだけ辛抱することになりそうだ。具体的なことはTAMAYURANの新Twitterアカウントにてアナウンスされるので、そちらをチェックして欲しい。
明治の時代から大正、昭和、平成、令和へと130年の時を超えて受け継がれてきた京町家を舞台に、猫たちとともに歩むTAMAYURANの第2章スタートが楽しみだ。