シェアハウスの住人1対Nから生まれる無限の可能性 ― 京都微住計画・シェアハウス開土町滞在記③

 

京都に移住するほどではないけれど、京都が好きで何度も来たい。京都の暮らしに触れたい、でも地元も好き。だから時々、京都に来て、京都を味わいたい。―― そんなフリーライターが、京都に微かに住む「微住」を実践しに「空き家バンク京都」のシェアハウスに滞在し、京都の暮らしを感じる。

今回の滞在地は、京阪伏見稲荷駅、JR稲荷駅からそれぞれ徒歩5分の場所にある深草開土町のシェアハウス。7月14~18日まで4泊5日で伏見稲荷の街を味わった。

シェアハウスの住人1対Nから生まれる無限の可能性 ― シェアハウスの関係性について今回気づいたこと

今回の滞在中に、フリーランスの勉強会と交流会が、空き家バンク京都のコワーキングスペースであった。

元々は、同業のライターである充紀さんとの出会いから始まって、空き家バンク京都代表鈴木さんから「スキル交換」の申し出により、実現したシェアハウス滞在。こうして多様な住人たちと話をしていると、空き家バンク京都と自分とのスキル交換というだけでなく、住人全体、関わる人全体ともスキル交換が始まっているなと感じた。

これは、シェアハウスという多様な人を抱えるものだからこそ、人と人とが1対1ではなく多面的にかかわることができ、またお互いの特性や魅力が垣間見えて、補強し合える関係性が生まれていくのだと思う。

住人同士のスキル交換

滞在中にフリーランス同士の勉強も兼ねた交流会も空き家バンク京都のコワーキングスペースであった。Webライターとして美容系の記事を書いている充紀さんが、ライターという仕事に興味があるという人たち3人に向けて「SEO記事の書き方」を伝えた。

SEOというのは、Search Engine Optimization(検索エンジン最適化)の略で、ライターだけでなくドメインを持つ人、ホームページを持って事業の発信をする人たちにとって必須の知識である。3人は必死でメモを取っていたが、内容も含めて、20代の人たちが一般的な会社員として勤める以外の働き方、生き方が充紀さんを通して知られる貴重な機会だなと感じた。

勉強会を終えた後、コワーキングスペースでそのまま交流会をして、シェアハウスでまた別の住人たちも含めた「二次会」をした。

「おいしいものを人と共有したいから」と言って、自分が持っているちょっとこだわりのおつまみを快く分けてくれたS君。彼の食べ物のチョイスのセンス、また相手の目を見てじっくり話を聞いてくれる姿勢に、つい自分の話を打ち明けてしまう。久々に「自分の話を聞いてもらいたい」と思った。こんなスキルを持つ人もいる。

また、私が「身体が硬くて、どうしたらいいか悩んでいる」というと、どの筋肉が弱まっていて、どう改善する必要があるのか、トレーナー経験がある男性が教えてくれた。

その後、開土町のシェアハウスに戻ると、その住人の女性も詳しく、女性目線でのアドバイスもくれた。

「女性はまずは骨盤が大切」と言って、風呂上りにやるといいストレッチも一緒に教えてくれて、わざわざジムに行かないと知れない情報がすぐに得られた。

お互いにないものを補強し合える関係が、シェアハウスに入れば始まっていくようだ。

トレーナー経験のある男性は、まだ入居から数日という。シェアハウスを選んだ理由について「仙台から来て、やっぱ、こっちでは人脈もないですしね。どうしたらいいかって聞けばわかることもある。それがいいなって思いますね」と話した。

確かに、新天地での暮らしは、わからないことだらけ。こういったシェアのやり取りにどんなにか助けられることだろう。彼自身もこうして自分の知識や情報をシェアしている。

一対一ではなく、1対Nが心地いい

海外では多いというシェアハウスだが、日本ではあまり一般的ではない。私の周りでは多くの友人たちがすでに結婚し、夫婦で生活していたり、子どもを持っていたりする。家族でも友人でもない他人と暮らすというのは、私の地元ではあまり見かけない。

一般的に大人が暮らすというのは、二人の男女が同棲するなり、結婚するなりして住んでいるイメージがある。二人というのが基本的なベースになるかもしれないが、私はずっとこの男女二人が暮らすということにどこか限界があると感じていた。だから、今回、シェアハウスに来ていろんな男女が暮らしているということが、新しくて面白いなと思った。

私は20代のころ、当時付き合っていた人と同棲していたことがあった。その時に感じたのが、一対一の関係性はきついなということ。なかなか結婚という次の段階には踏み切れなかった。同棲生活はとても楽しかったが、けんかしたり、気まずくなったりしたときのために自分のアパートは解約せず、家賃を払い続けた。

実際に自分の部屋に戻ることはほとんどなく、そんなに気まずくなるようなこともなかった。だが、相手を完全に信頼して、一緒に暮らし続けるということはハードルが高かった。

家族でも恋人でもない、友人でもない、新しい関係性

「住人とは恋愛関係にはならない」とあるシェアハウスの住人が言っていた。

一緒に生活し、一緒にご飯を食べていると仲良くなりそうではある。この中から親密な間柄のカップルが出てきてもよさそうだ。

「どうして?」とたずねると「お互いの生活が見えてしまうから」と話す。

「どういう状況になったら恋愛関係になるのですか?」と聞くと、「たぶん、一緒につり橋を渡るとかドキドキするようなことをすれば、ですかね」と笑って答える。「たぶん、今後もない」という返事に受け取った。

「もう家族みたいな感じ」と言うと、その場にいた周りの住人たちもうなずいていた。

シェアハウスに来て思ったのが、男女がともに暮らしていても恋愛関係にはなりにくく、恋愛という強固な一対一の関係性でなく、家族のようなかたちで、1対N(2・3・4人…)でゆるく異性というものを知ることができるということ。

恋愛関係では、相手に期待することも多く、楽しい反面苦しいことも多い。だが、シェアハウスでは、そもそも相手に期待していない関係性で、なおかつ友人よりも近い不思議なかたちで、お互いを知れる。

家族に男兄弟はいても、大人になってからの異性というのは、職場や恋愛関係でしかなかなか知りえない。恋愛関係を通して、異性を深く知るのもいいが、お互いに期待しすぎて苦しい思いをすることもある。

そういう意味では、結婚する前にシェアハウスを経験するのもいいのかもしれない。

「シェアする」関係性

前回の記事でも書いたが、私は家族でも恋愛関係でもない異性と寝泊りしたり、暮らしたりしたことがあまりない。だから、こうして男女が普通に暮らしていることが今回、訪れた深草のシェアハウスを見ていても新鮮だった。

そういえば、人間関係には、家族、友人、恋人、夫婦、子ども、同僚などといった名前が付いている。だが、シェアハウスの住人は、どれにも当てはまらないものだなと思った。強いて言えば、「家族みたいなもの」らしい。

だが、家族とも何か違う。前回滞在した西陣のシェアハウス、また今回の交流で感じたのは、「シェアする」関係性だなと思った。

家族、友人、恋人など既存の名前が付けられないが、自分とは違った存在の人たちがお互いを補強し合う、助け合って生きていくというもの。

今後、結婚しない人は増えるだろうし、結婚しても離婚する人も周りではよく見かけるようになった。恋愛、結婚という関係性にとらわれず、男と女、違った価値観やスキル、特性を持つ人たちがともに補完しながら関わっていくことは重要なことだろう。

 

今後も、住人同士の交流会や勉強会、イベントなどを開いていくようだ。なかなかシェアハウスの住人同士の交流は聞いたことがない。私の友人が住んでいた京都市内の別の会社のシェアハウスでは、お互いに踏み込まないのが基本的なルールになっているようだった。

しかし、一緒に生活していくとどうしても相手のことは見えてしまう。ならばお互いを知って、お互いのよさ、特性、スキルを交換し合えるような関係性が心地よさそう。今後も空き家バンク京都のコワーキングスペースやBBQテラスを使って、住人同士の交流会や勉強会などが開かれるようだ。

この記事書いた人

梅澤あゆみ

フリーライター。
暮らしや事業承継などさまざまなメディアに記事を執筆。京都市生まれ、福井市在住。
幼いころから京都の文化財に触れ、大人になった今も古いものが大好きで、京都や奈良にたびたび通っている。
奈良大学院卒、考古学専攻。大学院卒業後、埋蔵文化財の発掘調査の仕事を経て、2019年よりフリーランスに。京都をはじめ世界中の遺跡や遺物に触れることをライフワークとしている。