自然とつながる街中の神社・伏見稲荷大社 ― 京都微住計画・シェアハウス開土町滞在記②

 

京都に移住するほどではないけれど、京都が好きで何度も来たい。京都の暮らしに触れたい、でも地元も好き。だから時々、京都に来て、京都を味わいたい。―― そんなフリーライターが、京都に微かに住む「微住」を実践しに「空き家バンク京都」のシェアハウスに滞在し、京都の暮らしを感じる。

今回の滞在地は、京阪伏見稲荷駅、JR稲荷駅からそれぞれ徒歩5分の場所にある深草開土町のシェアハウス。7月14~18日まで4泊5日で伏見稲荷の街を味わった。

(取材・文 : 梅澤杏祐実

自然とつながる街中の神社 伏見稲荷大社 ― エリアの中心・稲荷神社について

伏見稲荷大社と言えば、どこまでも続く朱の鳥居。トリップアドバイザー「外国人に人気の日本の観光スポット」1位に何度も選ばれている。その「インスタ映え」する光景に、外国人観光客や若いカップルたちが写真を撮っているイメージを持つ人も多いのではないだろうか。

私は今回初めて稲荷大社を訪れた。ガイドブックでよく見る、どこまでも続くあの長い鳥居、鮮やかな朱色が見どころだと思っていたが、実際に来てみると、もっと大きな魅力を感じた。

さらにその先には「京都一周トレイル東山コース」が続いており、自然が豊かに広がっていた。伏見稲荷大社を通して、京都という場所だからこその街と自然を抱える魅力を身体全体で感じることができた。

伏見稲荷大社の緑を映えさせる朱の鳥居

伏見稲荷大社に来てみると、若い男女や修学旅行生ら観光客に交じってランニングしている人がちらほら混じっていた。

神社の参拝は、入ってすぐの本殿を参るだけでもいいが、その奥には山があり、山を上がって参拝する人も多い。トレーニングに利用する人もたまにいるようだ。ほとんどは、一般的な観光客ばかりだったが、山を駆け上る人が参拝の際に必ずいた。

多くの人が汗だくになりながら、赤い顔で息を切らして登っていたが、なんだかんだ言って、上まで登れてしまう。坂道、階段がなだらかで、足を一歩出せば次の段にゆるく届き、前に進むだけで足を運ばせてしまう。

「あと何段で山頂か」と思うこともなく、割とスッと登れて、気が付くともう四辻まで来て、見晴らしのよい眺めを楽しむうちに山頂にたどり着けてしまう。

どこまでも続く朱の鳥居も、実際に見てみると、鮮やかな朱色はそれ自体が主役というよりかは、自然の緑を美しく見せるような印象を受けた。

「映え」は、鳥居ではなく、自然の緑をより映えさせているのだった。

朱の鳥居の先には、神苑が広がっていて、神社があることで自然が守られてきたのだと感じた。こんなにも京都の街が近いというのに、ここにはこんなにも豊かな自然が広がっている。だからこそ、ここで暮らす住人たちは穏やかで優しいのかもしれないともふと思った。

境内を進んでいくと、なぜランニングの人たちが来ているのかわかってくる。山頂まで登るのはもちろん、トレイルコースにつながっていて、走るのにうってつけの場所でもあるのだろう。

「京都一周トレイル」と書かれた標識がある。どうやら、伏見稲荷は京都一周トレイルの東山コースの起点になっているらしい。

京都一周トレイルとは、京都の東南、伏見桃山から比叡山、大原、鞍馬を経て、嵐山などに至る全長約83.3キロのコース、自然豊かな京北地域をめぐる全長約48.7キロのコースからなり、どちらも、市街を離れ、自然を感じられる道が続いているようだ。伏見稲荷大社は、東山コースの起点として始まり、その奥に自然豊かな野性的な道がある。

中に進むと、自然の緑がより深みを帯びる。蚊に刺され過ぎて、かゆいどころか刺された箇所のあちこちが一度に刺激されてぞわっとする。それでも、自然の景色とどこまでも続くお社を見ながら、この先にどんなものがあるんだろうと足が止まらない。

まさか、こんな冒険をしているかのような気分をここで味わえるなんて。初めてこの神社に来たときには、境内の奥にある山を登り、2回目は清滝で滝つぼに打たれた。3回目は境内を進みつつ、通常の参拝コースに加えてトレイルへと、飽きさせない。

どこまでも続く鳥居だけでなく、まだあるのかと思うお社と狐。ちょっと奥に入れば、豊かな自然の景色が広がる。

また参拝する時間によっても多彩な表情を見せる。朝は清々しく、日中は汗をかきながらもそこかしこに疲れを癒す出店が上にも下にもあり、夜は夜で鳥居に入る光と影の線、四辻から見える夜景と、ここに参拝することを夢中にさせてくれる魅力があった。

京都一周トレイル「東山コース」起点の伏見稲荷大社からその先へ

京都一周トレイル東山コースを進むと、伏見稲荷大社を抜け、泉涌寺へと進んだ。

「こんな自然が京都の街中にあるなんて…」と思う。

まさか、たった1時間もかからない易しい登山でこんなにも野性味あふれた道を歩けるなんて。福井の小浜から京都の出町柳まで続く鯖街道を歩いてきた人間にとって、こんな鯖街道のような道がここで経験できると思ってもみなかった。

登山は基本的に車で1時間以上かけて行くものだと思っていた。しかし、街中から自分の足で行けて、帰るときもバスや公共交通へのアクセスがある。

東山トレイルは伏見桃山から深草地域をめぐる約9.5㎞のルートと伏見稲荷大社から清水山、インクライン、大文字山四ツ辻、哲学の道を経て比叡山に至る約24.6kmのコースがある。

今回、仕事の打ち合わせがあり、トレイルコース歩きに終日を費やすことはできず、途中でリタイヤすることにした。山道を抜けて国道に入ると、あっさり四条河原町行きのバス停があった。さらに時刻表を見ると、数分後には到着するということだった。

福井ではこんなことはあり得ない。京都という街だからこその利便性と、その奥にトレイルにぴったりの自然が残る道がある両面性。こんなに自然が近くにあるなら、「京都に住めるな」とすら思った。車がなくても、自然にダイレクトにつながっていて、自分の足で行けて、すぐにエスケープもできる。

街中の喧騒に疲れたら、野性味あふれるトレイルコースに入ってリフレッシュできる。自然の中をたっぷり楽しんだら、人の生活道路に帰ることも難しくない。

都会でありながら、自然を守ってきた寺社仏閣の観光地を多く囲むおかげで、その先に自然が多く残された京都の特性が街と自然の両方を楽しめる独特な場所となっている。

この記事書いた人

梅澤あゆみ

フリーライター。
暮らしや事業承継などさまざまなメディアに記事を執筆。京都市生まれ、福井市在住。
幼いころから京都の文化財に触れ、大人になった今も古いものが大好きで、京都や奈良にたびたび通っている。
奈良大学院卒、考古学専攻。大学院卒業後、埋蔵文化財の発掘調査の仕事を経て、2019年よりフリーランスに。京都をはじめ世界中の遺跡や遺物に触れることをライフワークとしている。