実は近い洛外?お稲荷さんと人が温かいローカルな街、伏見稲荷 ― 京都微住計画・シェアハウス開土町滞在記①

 

京都に移住するほどではないけれど、京都が好きで何度も来たい。京都の暮らしに触れたい、でも地元も好き。だから時々、京都に来て、京都を味わいたい。―― そんなフリーライターが、京都に微かに住む「微住」を実践しに「空き家バンク京都」のシェアハウスに滞在し、京都の暮らしを感じる。

今回の滞在地は、京阪伏見稲荷駅、JR稲荷駅からそれぞれ徒歩5分の場所にある深草開土町のシェアハウス。7月14~18日まで4泊5日で伏見稲荷の街を味わった。

(取材・文 : 梅澤杏祐実

実は近い洛外?お稲荷さんと人が温かいローカルな街、伏見稲荷 ―地域のエリア特性、アクセスと人の雰囲気について

シェアハウス京都深草開土町は、伏見稲荷大社から徒歩5分の場所にある。JR京都駅から5分、京都市街の三条京阪からも10分で行けるというアクセスの良さがありながら、どこか遠いようなイメージがあった。

伏見というと、遠そうだなと思っていたが、意外にも境地市街地から近く、なのに静かで落ち着いた雰囲気があった。伏見稲荷で商店を営む人、住人たちも、いわゆる「いけず」な感じではなく、素直な気持ちで接してくれて、どこか温かく優しい街だった。

 

実は近い、伏見稲荷

伏見稲荷大社境内に続く道

「京都市街から10分15分なのに『こんな遠くから来て』…って洛中の人からは言われるんですよ」―― 伏見稲荷大社の前に並ぶ商店街のある店主が言う。

「洛中」とは、京都の町なかのことを指し、「洛外」は郊外といった意味を持つ。伏見は、洛中に近い洛外だ。

今回滞在した伏見稲荷エリアに来てみて、意外だった。京都市街からなんとなく遠いイメージがあったのに、10~15分程度で行ける場所にあるのだ。「伏見」と言ってもかなり広いが、稲荷神社があるこの一帯は京都駅からも、京都の市街地からも割と近いのである。

(画像)GoogleMapより

なのに、市街地とは違った落ち着いた雰囲気がある。前回泊まった西陣五辻東町のシェアハウス(前回の記事はこちら)は千本通りがすぐ近くにあり、家にいても誰かの話し声が外からしていた。東福寺のエリアでもゲストハウスに泊まったことがあるが、街の喧騒が感じられる場所だった。東福寺は、JR稲荷駅からたった一駅の場所である。

しかし、この伏見稲荷は、静か。伏見稲荷大社という大きな観光地があるものの、どこかのんびりしていて、夕方には商店街が閉まっていき、西陣で夜に聞こえた若者の元気な声も飛び交っていない。

シェアハウス京都深草開土町の周辺の路地

その理由は、「洛外」ということも関係しているからだろう。

 

「洛外」だからの落ち着いた地域性

京都人からすると、この洛中、洛外という地域区分が非常に重要な意味を持つようだ。外から見れば、同じ京都だが、中に入ってみると微妙に異なる文化圏・生活圏を持っているなと感じる

伏見は、稲荷大社をはじめ、23の酒蔵を持つ大規模な日本酒の生産地となっていて、坂本龍馬が活動の拠点とした「寺田屋」も有名だ。

伏見区一体でみれば、桂川、鴨川、宇治川など主要な河川が流れ、古くから伏見港などを中心に水運交通の拠点として栄え、「伏水」とも言われた良質な地下水があることで古くから酒づくりの地としても発展してきた。歴史的に非常に重要な場所となっている。

空き家バンク京都のシェアハウスが多数ある深草の地域は、古くは土器の生産地であり、都の中心部に多くの土器を搬送していたとされる。伏見は、中心部を離れ、落ち着いた「洛外」の環境だからこそ、お酒や土器といった都の生活に必要なものを生産する地域となっていたのだろう。

 

お稲荷さんがたくさん並ぶ商店街

市街地に近いのに、どこかゆったりのんびりした空気。人もそんなにせかせかしていない。かといって、京都市街から離れていくと見えてくる国道沿いに全国チェーンの店舗が並ぶ風景もなく、そこには地元の昔ながらの店が軒を連ねている。

老舗和菓子屋「いなり ふたば

チェーン店は伏見稲荷大社の前の通りで、セブンイレブンやコメダ珈琲などが見えるのみ。こうした古くからの店が並ぶ光景は、全国各地ではシャッター街となり、なかなか見られない。

たくさんのお稲荷さんをあしらったそれぞれの個性あふれるお店のなかで、「セブンイレブンはどこにあったかな?」といつも看板を探すほど、全国チェーンは埋もれてしまっている。

その代わりどこを歩いても、キツネのお稲荷さんがあちこちにいる。

猫のようなかわいらしいキツネ、インスタ「映え」そうなキツネ。

まさかのタクシーまで、遠くから見ると、何かに見える、と思って立ち止まって目を凝らすと、お稲荷さんだった。

 

ローカルな人たち

「伏見は田舎なんですよ」と商店街のある店の店主は話す。道理でなのか、地元福井の店で話す感じとあまり変わらない。

商店街に並ぶ「いなりのいもや」では「福井の人?私、福井の知り合いいるからその話し方でわかるわぁ」と言われた。

「いなりのいもや 小西いも」

マスク越しに笑顔で話しかけてくる店主。そこにはチェーン店で対応されるマニュアル通りの対応もなく、かといって、都会の人という感じもない。

福井にある小さなお店の人たちと似た温かみのある話し方だ。のんびりゆったりとしていて、なんか落ち着く感じ。

ふらっと入った別のお店では、来店当初はどこか嫌な顔をされたのに、気が付くと1時間くらい立ち話をしていた。紙を扱うそのお店「京都活版印刷所」では、福井の越前和紙に興味があるようで、福井県内にある紙の神社のことや和紙のことなどを聞かれた。

京都にゆかりのあるクリエイターと作った伏見の魅力を伝えるノート。
お店で店主とやり取りしていくうちに話を聞いて買うことに。

やり取りをしていくうちに、その人が普段感じている不満や愚痴もぽろっと出てくる。あぁおそらく、地元の人には言えないことも私に話してくれているんだなと感じると、逆にうれしかった。

今後、京都市内で開催予定のイベントの話や協力をお願いしたいことなど、地元の人間じゃないのに話してくれて、こうして出会ったことを大事に今後も関われたらいいなと思う。

 

ごみだしのやり取りで感じる地元の人の素直な心

滞在2日目の朝、シェアハウスの辺りを散歩していると急に呼び止められた。

「あなた、今そこから出てきた?」

どうやら、この近くに住む住人の方らしい。50代以上とおぼしき年配の女性。箒を持って自宅の辺りを掃除しているようだった。女性の顔色はどこか険しく、私は身構えた。

「はい。そうですけど、どうしました?」

「ゴミ袋にネットを掛けて出さないからカラスにやられているの。いつ出した?あなたが出したの?」

これはやばいと思って、まず謝った。

「ごめんなさい。私昨日来たばかりで何も知らなくて。ごみは片づけておきます。ネットはどこで買ったらいいのですか?」

すると、女性の顔色は優しくなっていた。さっきまでの顔色とは打って変わって、つり上がっていた目が下がってきた。

「そうなの、あなた昨日来たばかりだったの?ネットはね、ホームセンターで買えるし、他のネットのところに入れておけばいいわよ」

と声色も優しくなっている。さっきまでの口調がとたんに穏やかになり、安心して私はごみを片づけ、言われた通り、ごみ袋を他のネットの中に掛けておいた。

この辺りでは、郷のルールを間違えてしまったかなと思っても素直に謝ると、優しく返してくれる人が多かった。険しく見えたかのような表情は、穏やかになり、思っていることを素直に返してくれる感じ。よく言われる京都の「いけず」さがあまり感じられず、むしろ住人と話していると、「わかってもらいたい」「聞いてほしい」という素直な気持ちを感じた

怒られてもこうして話せば、お互いのことが伝わり、相手の顔を見ていると、面倒というよりは、相手の気持ちを感じると、むしろうれしい。旅先ではこんなやり取りは普通生まれない。京都市街で泊まったことのあるホテルのある辺りでは、こんな話をしたことはない。

ホテル街や学生、単身者が多い街では、ごみが野放しになったままで、そんな光景が目に飛び込んでくると、気持ちがなえてくることもあった。でもこうして、自宅の前を掃除して、町内を管理している人に触れると、あぁありがたいなと思う。

街を守り、管理している人にこうして出会えるのは、シェアハウス滞在ならではのおもしろさかもしれない

この記事書いた人

梅澤あゆみ

フリーライター。
暮らしや事業承継などさまざまなメディアに記事を執筆。京都市生まれ、福井市在住。
幼いころから京都の文化財に触れ、大人になった今も古いものが大好きで、京都や奈良にたびたび通っている。
奈良大学院卒、考古学専攻。大学院卒業後、埋蔵文化財の発掘調査の仕事を経て、2019年よりフリーランスに。京都をはじめ世界中の遺跡や遺物に触れることをライフワークとしている。