コロナ禍が続く2021年現在。リモートワーク、在宅ワークなどが一気に普及し、働き方・暮らし方の多様化が進んでいます。そんな背景の中、若者を中心に「田舎暮らし」への関心が以前よりも高まっているようです。内閣官房が実施した都内在住者へのアンケート調査では、約5割もの人が地方圏での暮らしに関心ありと回答しています。
京都市のとなり、四方を囲む山々や保津川などの豊かな自然に囲まれた京都府亀岡市もいま、田舎暮らしを希望する人たちからの注目が高まっている地域のひとつ。
「移住に関する問い合わせは年々増えていて、近年では年間300件ほど電話やメールをいただいています。また、『実際に亀岡市を見てみたい』という方への市内案内もご希望が多く、毎週のように実施しています。」
そう語るのは、亀岡市ふるさと創生課の係長・荒美大作(あらみ だいさく)さんです。
空き家バンク京都では、亀岡市内で現在唯一のシェアハウスである「シェアハウス亀岡」を運営しています。入居者のひとりが荒美さんに市内案内をしてもらったというご縁からこの度、荒美さんにお話を伺う機会を得ました。
市の職員として精力的に亀岡市のPRをされている荒美さんに、亀岡市のことや移住の状況、田舎暮らしについてなどを語っていただきました。
― 取材 : 空き家バンク京都 代表 鈴木一輝、ライター 充紀
― 文 : ライター 充紀
移住希望者のほぼ100%が家庭菜園を希望。自然豊かな亀岡市
かつて、「本能寺の変」で有名な明智光秀の拠点「丹波亀山城」があった亀岡市。大自然に恵まれ、京都・嵐山からの「トロッコ電車」や、年間約30万人の観光客が訪れるという「保津峡下り」などが有名です。
四方を山に囲まれている亀岡盆地では、冬場は「丹波霧」と呼ばれる深い霧が頻繁に発生することから「霧の都」とも呼ばれています。
上の写真の撮影場所、丹波霧の雲海を見渡すに最適な「かめおか霧のテラス」から晴れた日の市内を見渡すと、市街地以上に広大な田畑が一望できます。
そんな自然豊かな亀岡市。年間300件ほどあるという移住希望者の問い合わせは、「家庭菜園がしたい」という方がほぼ100%近いといいます。
「家庭菜園で自分で食べるものを自分で作ってみたいなど、いわゆる”丁寧な暮らし”を求めて移住を検討される方が多いのかなと感じます。都会の喧騒を離れ、自然豊かなこの地で、これまでとは違った新しいライフスタイルを求めている方がほとんどです。」
移住希望の問い合わせには、大きく2つの層がある。そう荒美さんは語ります。
「まず1つは30代半ば~40歳くらいで、お子さんが小学校にあがる前の方たちです。自然の中でのびのびと子育てをされたいという思いを持った方も多いですね。
もう1つの層は、定年退職を終えた60歳以上の方たちですね。老後は田舎暮らしを楽しみたいという想いで亀岡の地を見にくる方が多いです。
また、ここ最近の特徴として、20代の方からの問い合わせも少しずつ増えていると感じますね。」
大自然溢れる亀岡市ですが、実は京都市内へは電車でたった20分ほど。京都市や大阪への通勤にも便利な立地で、実際、亀岡市居住者の就業人口の約4分の1は京都市内で働いているといいます。
大自然での田舎暮らしと都市部への容易なアクセス。両方とも手に入ることも亀岡市の魅力のひとつなのです。
家庭菜園をしながら古民家暮らし。そんな生活に憧れる方が多いが……
そんな亀岡市への移住。希望者の方の中には「古民家」を求める方が多いという。
「やはり、古民家は人気ありますね。家庭菜園付きの古民家で暮らしたいという方はとても多いです。」
しかし……。荒美さんは続けます。
「しかし、古民家はなかなか難しいというのが実際です。まず、古民家がなかなか出てこないんです。それに出てきてもそのままでは生活しづらく、改修費用も大きくかかってしまうということもあります。」
古民家がどうして出てこないのか。荒美さんの話す内容は、まさに空き家バンク京都が京都市でぶつかってきた状況と同じでした。
「1つは、仏壇が置きっぱなしになっていて動かせない。1つは、荷物が置きっぱなし。そして、親族やご近所さんへの”体裁”というのも大きいですね…..。昔から所有している物件を手放すとなると、ご近所の方への ”世間体が悪い” という意見が亀岡でも大きいです。
物件をただ売ったり貸したりするのではなく、『若い世代の呼び込みのため』や『農家を継ぎたい人のため』など、何かしらの“社会的意義”を付加できると大家さんも気兼ねなく手放しやすいのですが……。」
また、大家さんと移住者との間で希望のミスマッチもあるといいます。
「空き家の大家さんたちとしては、“売りたい”、”手放してしまいたい”と思っている方がとても多いです。それに対して、住みたい方は“借りたい”と考えている方が多く、そのミスマッチも大きなネックとなっていますね……」
“移住希望者の想いにマッチするものを提供したい” ― 亀岡市の取り組みと「空き家バンク京都」の今後の展望
とはいえ、市の数々の取り組みも功を奏し、亀岡市に移住される方は着々と増加しています。亀岡市が平成28年から運用している「空き家・空き地バンク制度」を通じてのマッチングも数多く成立しているといいます。
「運用開始から5年間で100軒弱の空き家が登録され、そのうちの80軒ほどは既にマッチングが成立しました。空き家を見たいという方は多くて空き家が足りていないくらいなので、もっと空き家を手に余らせてしまっている方に対して『空き家バンク』の認知と利用促進を強化していきたいですね。」
また、空き家バンク制度だけでなく、亀岡市では移住促進のための助成金を数多く設けています。例えば、亀岡市への移住するために取得した空き家の改修費用などを最大180万円も補助してくれる「移住促進住宅整備事業」や、空き家所有者が売却や賃貸をするために家財等の撤去をする際にかかる費用を最大10万円補助する「空家流動化促進事業」などがあります。
(参考 : 移住促進特別区域内の空き家活用などへの支援について | 亀岡市公式サイト)
それだけではありません。移住を前向きに検討されている方には、市のふるさと創生課の職員自らが丁寧に無料亀岡案内を実施していますし、定期的なオンラインイベントの開催などもしています。
コロナ前なら、1泊2日の「移住体験ツアー」の実施などもしており、ツアー参加者が実際に移住されるなど、しっかり成果をあげています。
「やはり、”田舎暮らしをしてみたい” とは思っていても、いきなりだと踏み切れない方も多いですからね。このツアーでは、実際にお宿を泊まりながら空き家バンクの登録物件を見てみたり、その近所に住む方と交流したり、先輩移住者さんからお話を聞ける時間を設けたりもしています。
このように、泊まりがけで時間をかけつつ、実際に田舎の暮らしを ”体験してみる” ことはとても効果的なのかな、と感じています。参加者さんたちの反響もとてもよかったのですが、第2回の計画中にこのコロナの状況になってしまったので、また時期をみて実施したいですね。」
(参考 : 京都・亀岡の暮らしを訪ねる移住体験ツアーレポート | 京都移住計画)「そういう意味では、空き家バンク京都さんのシェアハウスができてくれたことはすごくありがたいと感じています。シェアハウスは気軽に入居しやすいですし、亀岡での暮らしを”お試し” する場所としても効果的なのかな、と思っています。」
そんな荒美さんの話を受け、空き家バンク京都の代表・鈴木はこう語ります。
「今日の荒美さんのお話を伺い、自分の目で市内各地を回ってみて、自分たちがいま提供しているシェアハウスは”希望者さんたちが求めるもの”とはちょっとマッチングできてなかったな、と感じています。西洋風な物件ですし、家庭菜園ができるようなスペースもありませんし……。
でもお話を聞いて、ぼくたちがお力に慣れることも大いにあるとも感じます。ぼくたちならこれまで京都市を中心に培ってきた経験を活かして古民家の取得や低予算での改修をすることができるはずです。
家庭菜園付きの物件や昔ながらの古民家を掘り起こして、移住希望の方にお貸ししたり、新たなシェアハウスを作ったりといった活動を今後考えていきたいですね。」
今回、亀岡市役所の荒美さんとお会いできたのも大きな縁です。今回はお伝え仕切れなかった面白いお話もたくさんお伺いすることができて、空き家バンク京都の亀岡市での活動も具体性が高まりました。
空き家を余らせていてお困りの方、あるいは亀岡の地で新たな生活をしてみたいとお考えの方たちのお力になれるように、活動の幅を広げていきたい。そんな想いが高まる取材となりました。
― 文 : ライター 充紀