- 空き家対策特別措置法が難しくて分からない
- 空き家対策特別措置法の改正された内容が気になる
- 空き家対策特別措置法の改正で注意すべき点を教えてほしい
空き家対策特別措置法は、空き家問題の対策として施行された法律です。空き家所有者または所有予定の方が、空き家対策特別措置法について理解していなければ、リスクが増えたり機会損失を生んだりするでしょう。
今回は空き家対策特別措置法の基本から注意点までわかりやすく解説します。空き家対策特別措置法への理解が深まれば、空き家放置のリスクを抑えて資産化できるようになるでしょう。ぜひ参考にしてみてください。
空き家問題が抱える社会的課題
空き家問題は、人口減少や少子高齢化が進む日本において大きな社会的課題となっています。まずは空き家問題の現状とリスクを把握しましょう。
空き家数の増加と深刻化する現状
総務省「令和5住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は年々増加しており、2023年時点で約900万戸(総住宅数の約15%)を超えています。とくに地方や過疎地域において、空き家が増加傾向にあるといえるでしょう。人口減少や都市部への人口集中が進むなかで、地方の空き家問題はさらに深刻化。
地方だけではなく都市部でも空き家の増加が確認され、老朽化や相続トラブルが目立っています。このような状況により、行政や地域住民による積極的な対策が求められているものの、十分な進展が見られない地域も多く、課題は山積みといえるでしょう。
参考元:総務省|令和5年住宅・土地統計調査
空き家問題が引き起こすさまざまなリスク
空き家が適切に管理されない場合のリスクは、主に以下のとおりです。
- 倒壊や火災の危険性が上がる
- 不法侵入や犯罪の温床になる
- 害虫や害獣の発生源になる
- 所有者の経済的負担が増加する
- 地域の景観が損なわれる
これらのリスクは周辺住民の生活に直接的な影響を与え、地域全体の安全性や住みやすさを低下させる要因となります。所有者だけではなく、近隣住民や通行人に至るまでリスクが及ぶことを把握しておかなければいけません。
空き家対策特別措置法の基礎知識
国は増加の一途をたどる空き家への対策として、2015年に「空き家対策特別措置法(以下、空き家法)」を施行しました。法律は難しいというイメージがあるものの、空き家所有者の方は「知らないと損をする」可能性が高いといえます。わかりやすく解説するので、ぜひ学んでみてください。
空き家対策特別措置法の重要性
空き家法は、空き家問題が引き起こすリスクの軽減に重要な役割を果たします。放置される空き家に対して、自治体が積極的に関与できる仕組みを整備。空き家法が施行されるまでは空き家への関心が低く、適切な管理や利活用が十分に行われていませんでした。
しかし、空き家法が施行されたことで自治体の関与により、積極的な指導や利活用の促進などが行えるようになりました。また、所有者や近隣住民だけではなく不動産投資家も空き家へ関心を寄せるようになり、以前よりも適切で積極的な利活用が行われています。
空き家対策特別措置法制定の背景と目的
空き家法は、空き家問題を解決するために施行されました。空き家法が施行された背景には、日本が抱える少子高齢化や人口減少、都心回帰などの社会問題が潜んでいます。とくに地方では人口流出による管理されない空き家が増加し、地域の景観悪化や治安低下、災害リスクの増加といった問題が深刻化。
空き家が増加し続けることで、適切な管理や利活用が追いつかなくなり、さまざまなリスクが発生してしまいます。空き家法の目的は、空き家の適切な管理を促進しながら安全で快適な生活環境を守るとともに、地域の活性化に寄与することです。
空き家法で知っておくべき「特定空き家」
「特定空き家」とは、周辺環境や人に悪影響を与える可能性が高い空き家のことです。特定空き家の基準は、以下のとおりです。
- 放置すれば倒壊等の危険性が高い状態
- 著しく衛生面で問題がある状態
- 著しく景観を損なっている状態
- 生活環境の保全に悪影響を及ぼす状態
次は、特定空き家に指定される主な流れを見てみましょう。
自治体が空き家の現状を調査する。
管理不全空き家または特定空き家に指定する。
なお、特定空き家に指定され、空き家が改善されないまま「勧告」された場合は固定資産税・都市計画税の減税措置が適用されなくなり、その後の「命令」に従わない場合は50万円の過料に処される可能性があります。最終的に行政代執行が行われ、所有者が費用を全額負担することに。このように空き家を放置すると、所有者への経済的負担が大きくなることを覚えておきましょう。
参考元:政府広報オンライン|空き家の活用や適切な管理などに向けた対策が強化。トラブルになる前に対応を!
空き家対策特別措置法のこれまでの成果
空き家法の施行によって得られている成果は、主に以下のとおりです。
- 自治体が地域内の空き家を把握しやすくなり、特定空き家への対応が進んだ
- 特定空き家として指定された物件の多くが解体され、安全性や景観が向上した地域が増えている
- 倒壊リスクや不審者侵入のリスクが減少し、住民の安心感が高まってきた
- 空き家の利活用を促進するための情報共有が進み、移住希望者や事業者とのマッチングが活発化している
徐々にではあるものの、空き家法による成果は得られています。
課題として残った部分も
空き家法による空き家対策が進む一方で、所有者特定の難しさや自治体のリソース不足、法的な問題などの課題もあります。とくに所有者不明の空き家は、手続きの複雑さにより簡単に解体することができないのが現状です。
令和6年に相続登記が義務化されたことで今後の空き家所有者の特定がしやすくなりました。しかし、既存の空き家(所有者不明)に関しては、所有者不明の空き家は頭を悩ませる課題といえます。
改正された空き家対策特別措置法
2015年に施行された空き家法は、2023年により厳格な内容に改正されました。改正された空き家法の内容や背景について見ていきましょう。
空き家対策特別措置法が改正された背景
2015年に施行された空き家法は一定の成果を上げてきたものの、増加する空き家や対応の難しさに対応しきれない課題が浮き彫りになりました。とくに所有者不明土地の増加、自治体の権限不足、特定空き家の指定基準の曖昧さなどが問題視されています。このような現状を受けて、より実効性のある法整備を求める声が高まり、2023年に改正が行われました。
具体的な改正内容
空き家法の主な改正内容は、以下のとおりです。
改正内容 | 詳細 |
特定空き家の判断基準の見直し | 対応を強化するために、特定空き家の前段階である「管理不全空き家(後述)」を新設。管理不全空き家に指定され勧告を受けると、特定空き家同様に減税措置が受けられなくなる。特定空き家よりも条件を厳格化(表下を参照)し、より多くの空き家が対象になった。 |
空家等管理活用支援法人制度の新設 | 空き家を積極的に管理したり、利活用したりしているNPO法人や社団法人を「空家等管理活用支援法人」に指定できるようにした。これまでよりも空き家所有者からの相談を受けやすくなり、空き家対策を促進できるようになった。 |
空家等活用促進区制度の新設 | 空き家対策をスムーズに行えるよう、「空家等活用促進区制度」を新設。自治体が空き家の利活用を積極的に図るエリアを定め、空き家所有者への利活用や建築基準法等の規制を合理化し、用途変更・建替えなどを促進できるようになった。 |
行政代執行の円滑化 | 緊急で処置が必要な特定空き家に対しては、命令等の手続きを行わなくても、解体や撤去などの行政代執行ができるようになった。これまで以上にスムーズな対処が可能。 |
以下の基準に該当する場合は、管理不全空き家に指定される可能性があります。
- 屋根の変形や外装材の剥落または脱落
- 雨水浸入の痕跡
- 立木の伐採、補強などがされず、腐朽が認められる状態
- 排水設備の破損等
- 駆除等がされず、常態的な動物の棲みつきが敷地等に認められる状態
- 補修等がされず、屋根ふき材や外装材などの破損、汚損などが認められる状態
- 立木の枝の剪定等がされず、枝等のはみ出しが認められる状態 など
参考元:政府広報オンライン|空き家の活用や適切な管理などに向けた対策が強化。トラブルになる前に対応を!
空き家対策特別措置法の改正後に注意点すべきポイント
空き家対策特別措置法の改正後に注意すべきポイントは、以下のとおりです。
- 特定空き家の指定基準の厳格化
- 自治体の権限強化による対応の迅速化
- 利活用促進に向けた制度の活用
- 近隣住民とのトラブル防止
それぞれの注意点を解説します。
特定空き家の指定基準の厳格化
特定空き家のみではなく、管理不全空き家に指定できるようになりました。軽度な破損や衛生状態なども調査対象になったため、少しでも管理が不十分な場合は管理不全空き家に指定される可能性が高くなります。所有者は、日常的な点検や修繕を怠らないよう注意が必要です。
自治体の権限強化による対応の迅速化
自治体の権限が強化され、管理不全空き家や特定空き家への対応がスムーズになりました。命令がなくても行政代執行が行えるようになったため、自治体の動向や対応方針に注目し、所有者として積極的に対応する姿勢が重要です。
利活用促進に向けた制度の活用
空き家の利活用を支援する制度が拡大されました。空き家バンクの登録や補助金制度、税制優遇を活用することで、空き家を有効に活用する選択肢が広がっています。自治体や専門家の情報を収集し、積極的に利活用することが求められます。
近隣住民とのトラブル防止
空き家が特定空き家に指定されると、近隣住民からのクレームが増える可能性があります。トラブルを防ぐためにも、地域住民との良好な関係を維持しながら、空き家の処分や利活用を迅速に行うことが大切です。
空き家所有者が取るべき具体的な対策
空き家所有者が取るべき具体的な対策は、主に以下のとおりです。
- 空き家の現状確認
- 空き家の管理と維持
- 空き家の利活用
- 専門家や自治体への相談
それぞれ解説します。
空き家の現状確認
まずは以下のように、空き家の現状を把握することから始めてみましょう。
- 老朽化による危険な箇所はないか?
- 害虫や害獣による衛生面は大丈夫か?
- 屋根や外壁などの状態は良好か?
- 草木の繁茂状態に問題はないか?
- 近隣住民に迷惑が掛かっていないか? など
管理不全空き家または特定空き家に該当するかどうかの詳細な基準は、「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」の別紙を参考にすると良いでしょう。少しでも基準に該当する場合は、自治体や専門家に相談して迅速に対策を講じることが大切です。
空き家の管理と維持
空き家の管理と維持を行うことで、管理不全空き家や特定空き家に指定されにくくなります。空き家の管理と維持のためには、日常的なメンテナンスを行ったり、管理代行サービスの活用を検討してみましょう。
日常的なメンテナンス
空き家を安全かつ清潔に保つため、以下の作業を定期的に行いましょう。
敷地内外の清掃 | ゴミや落ち葉を片付け、見た目の清潔感を保つ。 |
草刈り | 庭や敷地内の雑草を除去し、害虫や不法投棄を防ぐ。 |
排水溝の清掃 | 詰まりを防ぎ、水害リスクを減らす。 |
屋根や外壁 | 破損や劣化をチェックし、雨漏りを防ぐため修理する。 |
窓や扉 | 施錠状態を確認し、壊れた箇所を修理する。 |
電気や水道 | 定期的に使用して劣化を防ぐ。 |
換気 | 窓を開けて空気を入れ替え、湿気やカビの発生を防ぐ。 |
防虫・防鼠 | 害虫駆除剤や忌避剤を設置する。 |
室内清掃 | ほこりや汚れを取り除き、清潔に保つ。 |
定期巡回 | 月に1回以上訪問して、異常がないか確認する。 |
近隣住民との連携 | 周辺の人に異変があれば知らせてもらうよう依頼する。 |
空き家管理代行サービスの活用
空き家から遠方に住んでいたり、定期的に訪問できなかったりする場合は、空き家管理代行サービスの活用を検討してみましょう。空き家管理代行サービスは、所有者に代わり空き家を適切に維持・管理(清掃・劣化のチェック・剪定・換気など)してくれる有料サービスです。
遠方に住んでいる場合は、通うだけでも時間や費用がかかります。また、忙しければ空き家の維持・管理に割ける時間が取れない可能性があるでしょう。空き家管理代行サービスの活用で時間や手間を削減しつつ、維持・管理が実現します。
空き家の利活用
空き家を放置せず、以下のように利活用することが大切です。
- 賃貸物件として貸し出す
- 売却して第三者に利活用してもらう
- カフェやシェアハウスなどに再利用する
- 地域のコミュニティスペースとして活用する など
空き家の有効な利活用は、空き家問題によるリスクを抑えてくれるだけではなく、新たな価値を生み出してくれます。積極的に空き家の利活用を行っていきましょう。
空き家対策を支える制度やサービス
空き家対策を支えてくれるサービスは、自治体や民間企業が提供しています。それぞれのサービス内容を見てみましょう。
自治体が提供する制度やサービス
自治体には空き家問題解決のために、以下のような制度やサービスがあります。
- 空き家バンク:「売りたい人」や「貸したい人」と利用者のマッチングが行える。
- 補助金:リフォームやリノベーション費用の一部を補助してくれる。
- 利活用支援策:地域活性化のため空き家を利活用した者へのアドバイスを提供。
自治体の制度やサービスは地域ごとに異なるため、各自治体の公式サイトや窓口で確認しましょう。
民間企業が提供するサービス
自治体だけではなく民間企業も、以下のような空き家問題解決サービスを提供しています。
- 【空き家管理代行サービス】
空き家の維持管理を所有者に代わって行うサービス。 - 【売却マッチングサービス】
空き家の売却を希望する所有者と、購入を検討している個人や企業をつなぐサービス。 - 【リノベーションサービス】
空き家を新しい用途に合わせて改修し、価値を高めるサービス。 - 【賃貸管理サービス】
空き家を賃貸物件として活用する際に、賃貸契約の仲介や管理を行うサービス。
民間企業が提供するサービスも、さまざまです。自治体の制度やサービスを活用しつつ、必要に応じて民間企業のサービスも検討してみましょう。
早めの行動が空き家問題解決の第一歩!
空き家は増加の一途をたどり、放置することで多くのリスクが発生します。国は2015年に「空き家法(空き家対策特別措置法)」を施行し、2023年には基準強化のために法改正を実施。法改正により、より厳格な基準や新たな制度が設けられたことで、所有者へ空き家の利活用促進を行いやすくなりました。
空き家を放置すれば、所有者への経済的負担が増加するだけではなく、近隣住民にも迷惑がかかったり危険が及んだりします。空き家を「負動産」ではなく「富動産」として利活用するためにも、早めの対策を行っていきましょう。