• 空き家が老朽化して倒壊しないか不安
  • 倒壊した場合、所有者の責任はどうなるんだろう
  • 倒壊しそうな空き家の最適な対策はあるのかな

老朽化した空き家を放置すると、倒壊の危険が増して事故やトラブルの原因になります。倒壊による事故やトラブルが発生すると、所有者は多額の賠償責任を問われることもあるでしょう。

今回は、空き家の倒壊リスクから事例、所有者の責任、行政の対応、所有者が行うべき対策などについて詳しく解説します。本記事を読むことで、空き家のリスクや所有者の責任問題についての対策が理解でき、トラブルを回避しやすくなるでしょう。ぜひ参考にしてみてください。

老朽化した空き家の倒壊リスク

老朽化した空き家は、倒壊リスクが非常に高いといえるでしょう。ここでは、倒壊リスクの高い空き家の特徴と、実際に倒壊した事例をご紹介します。

倒壊リスクが高い空き家の特徴

倒壊リスクが高い空き家の主な特徴は、以下のとおりです。

特徴詳細
築30年以上あらゆる箇所の経年劣化により倒壊のリスクが高まる
旧耐震基準(1981年5月31日まで)で建てられた旧耐震基準では、震度5程度の地震に耐えられる強度しかない。一方、新耐震基準(1981年6月以降)では、震度6〜7でも耐えられる強度で設計されている。
定期的な点検・管理・修繕を行っていないメンテナンスが行き届いていない空き家は、経年劣化が進行しやすい
シロアリ被害が進行しているシロアリ被害により基礎や柱などの強度が低下する
屋根の重さと建物の耐震性が釣り合っていない地震による揺れが大きくなり耐震性が低下する
地盤が弱い場所に建っている地盤が弱い場所(埋め立て地・海や川などが近い土地)に建っている建物は、地震による倒壊リスクが高くなる
壁や柱の数が少なく配置のバランスが悪い耐震性に直結する壁や柱が少なく配置のバランスが悪い場合は、耐震性の低下につながる自然災害や経年劣化で傾いている
自然災害や経年劣化で傾いているすでにバランスを崩して傾いている建物は、部分的な負担が大きくなり、通常よりも倒壊リスクが高くなる

これらの特徴が複数当てはまる空き家は、倒壊リスクが高いといえます。

老朽化した空き家が倒壊した事例

老朽化した空き家は倒壊リスクが高く、早急な対策が必要です。実際に老朽化した空き家の倒壊事例をご紹介するので、意識を高めるきっかけにしてみてください。

積雪による倒壊事例

約30年間放置された空き家が積雪の重みで倒壊し、自治体が緊急解体・処理した事例です。相続人が経済的理由により解体等が困難ななかで、倒壊した屋根が崩落する事態が発生。その後、積雪による建物の倒壊により、道路を閉鎖しています。

自治体は危険を排除するために建物を解体し、瓦礫の処理を実施しました。工事期間中の3日間は、道路が通行止めに。解体費用は約274万円になり、自治体が負担しています。解体跡地には雑草が繁茂し、解体後の管理が新たな問題になりました。

参考元:日本住宅総合センター

突然の倒壊事例

空き家が突然、倒壊したという事例は、以下のとおりです。

場所・時期詳細
山形県酒田市(2024年8月)倒壊したのは、20年以上人が住んでいない空き家に隣接する、木造2階建ての車庫兼倉庫。夜に崩落し、瓦礫等が散乱していたため、付近の道路は通行止めになった。
福岡県八女市(2023年8月)倒壊したのは、30年以上人が住んでいない2階建ての木造住宅。午後11時半頃に「建物が倒れている」という通報があり、崩落した屋根や瓦礫が道に散乱していたため、一帯の道路は全面通行止めになった。

参考元:TBS NEWS DIG|県内の空き家は6万2000戸!空き家問題の現状と行政代執行での解体のハードルとは(山形)
    西日本新聞|福岡・八女市で空き家倒壊、市道ふさぐ 一帯は全面通行止め

このように老朽化した空き家は突然、倒壊する可能性があるため、非常に危険だといえるでしょう。また、空き家を放置することで、倒壊以外にも多くのリスクがあります。

その他の空き家を放置するリスク

倒壊以外にも、空き家を放置することで、以下のリスクが発生します。

  • 治安の悪化(放火・不法侵入・犯罪の温床)
  • 害虫・害獣の発生(近隣トラブルの原因)
  • 近隣住民とのトラブル(クレーム・訴訟)
  • 行政代執行・税金負担の発生(経済的負担の増加)
  • 資産価値の大幅な下落(売却の可能性が低下)

それぞれ解説します。

治安の悪化

管理されていない空き家は、不法侵入や放火の標的になりやすく、地域の治安を悪化させる原因になります。とくに、無施錠の空き家は不審者が入り込みやすく、犯罪の発生率が高くなるでしょう。このような状況は、周辺住民にとって大きな不安要素となります。空き家の適切な管理を行い、防犯対策を講じることが重要です。

害虫・害獣の発生

空き家を放置すると、シロアリやゴキブリ、ネズミなどの害虫が発生しやすくなります。また、屋根や壁が老朽化するとハトやイタチなどが住みつき、衛生環境の悪化を招くことも珍しくありません。

こうした状況が続くと悪臭や糞害が発生し、近隣住民とのトラブルにつながることも考えられます。被害が拡大する前に、適切な管理や害虫・害獣対策を実施しなければいけません。

近隣住民とのトラブル

管理が行き届いていない空き家は、景観の悪化や害虫の発生、倒壊リスクの増大など、多くの問題を引き起こし近隣住民とのトラブルの元になります。また、近隣住民から苦情が寄せられるだけでなく、損害が発生した場合には訴訟に発展することもあるでしょう。

隣接する建物に損害を与えた場合は修繕費、通行人に怪我を負わせた場合は治療費や慰謝料などの請求を受けることが考えられます。こうしたトラブルを防ぐためにも、定期的な点検や適切な対策を講じることが大切です。

行政代執行・税金負担の発生(経済的負担の増加)

空き家を放置すれば、経済的負担の増加にもつながります。空き家の危険性が高まると、自治体から所有者に指導や勧告などが行われ、対応がなされないまま空き家を放置した場合、行政代執行が行われるでしょう。行政代執行では、強制的に空き家が解体・撤去され、かかった費用が所有者に請求されます。

さらに、固定資産税の軽減措置が解除されることで税負担が最大6倍になり、経済的な負担が大きくなるでしょう。これらのリスクを避けるためにも、空き家の計画的な管理や売却の検討を進めることが重要です。

資産価値の大幅な下落(売却の可能性が低下)

老朽化した空き家は、見た目の悪化や安全性の問題により、資産価値が大きく下がります。周囲の景観を損ねることで、近隣の不動産価格にも悪影響を及ぼしかねません。

さらに、購入希望者が敬遠することで売却の難易度が上がり、長期間にわたり処分できない可能性もあります。こうした状況を避けるためには、適切な維持管理や活用方法を検討する必要があるでしょう。

倒壊以外に起こった空き家の被害事例

空き家の放置による倒壊以外の事故・事件が起きた事例は、以下のとおりです。

事例詳細
不審火による火災約24年間放置されていた築40年の空き家が、平成21年3月に夜間の不審火で出火。3棟が全焼、1棟がほぼ全焼。さらに、道路を隔てた4棟の外壁も焼け焦げるなど、被害は広範囲に及ぶ。

昭和63年頃から所有者である不動産業者が買い手を見つけられず長期間放置され、無施錠のため不審者が不法滞在することも。
暴風雨による屋根の飛散約30年間放置されていた築40年の長屋が、平成24年4月の爆弾低気圧により屋根が飛散し、建物が倒壊して前面道路を塞いだ。自治体は危険排除のため、屋根の撤去と解体を実施し、工事期間を含め3日間道路を通行止めに。

以前から屋根の一部崩落が確認されており、自治体は相続人とみられる人物に改善通知を送付していたが対応されず。最終的に約160万円をかけて自治体が解体・撤去を行った。
老朽化による屋根や外壁の落下約30年間放置されていた築55年のアパートが老朽化し、屋根や外壁の一部が崩落。強風や大雨の際には腐朽した屋根材や外壁材が落下し、隣家の外壁を損壊。平成23年12月、近隣住民から自治体に苦情が寄せられたため、調査により借地権者を特定。

指導文を通知したものの、その後の大雨でさらに崩落が発生し、警察や消防が出動。借地権者が借地権を放棄し、土地所有者が危険排除を決定。最終的に約230万円を負担し、平成24年2月に解体・撤去が行われた。
放置による雑草の繁茂約30年間放置されていた空き地に高さ1.5〜2mの雑草が繁茂し、樹木が隣接地や道路にはみ出して通行の妨げとなった。交通事故や犯罪の危険性が指摘され、自治会から雑草の刈り取りを求める申出があった。

平成23年9月に自治体が指導文書を発送したが改善されず、11月に勧告書、12月に措置命令を送付。その後も対応がなかったため、翌年3月に行政代執行を実施し、雑草除去費用約4万円を所有者に請求・回収。

参考元:日本住宅総合センター

老朽化した空き家が倒壊した際の所有者責任

老朽化した空き家が倒壊し、周囲に被害を与えた場合は、所有者が民法上の責任を負う可能性があるでしょう。民法第717条では「土地の工作物等の占有者及び所有者の責任」において、占有者(使用者)が適切な対策を行っていた場合は、所有者の損害賠償責任が規定されています。

また、民法第709条(不法行為責任)では、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定。法的トラブルに発展する可能性が高いため、倒壊リスクがある空き家を放置せずに、定期的な点検や修繕、解体、売却などを検討しましょう。

参考元:e-GOV|民法第709条

損害賠償責任による損害額シミュレーション

空き家所有者の損害賠償責任による、損害責任額はいくらくらいになるのでしょうか。今回は、以下の状況をシミュレーションした損害賠償額の目安をご紹介します。

  • 倒壊による隣接家屋の全壊、死亡事故
  • 火災による隣接家屋の全焼、死亡事故
  • 外壁材等の落下による死亡事故

それぞれの損害賠償額の目安を把握し、空き家放置によるリスクの大きさを覚えておきましょう。

倒壊による隣接家屋の全壊・死亡事故

倒壊による隣接家屋の全壊により、夫婦(夫40歳、妻36歳)および8歳の女児(小学3年生)が死亡した場合の損害額シミュレーションは、以下のとおりです。

【物件損害等】

費用区分損害額
住宅900万円
家財280万円
倒壊家屋の解体・処分320万円
合計損害額1,500万円

【人身損害】

費用区分損害額
死亡逸失利益11,740万円
慰謝料7,100万円
葬儀費用520万円
合計損害額19,360万円

参考元:日本住宅総合センター|空き家発生による外部不経済の損害額の試算結果(その2)

物件損害等および人身傷害の合計損害額は、20,860万円です。

火災による隣接家屋の全焼・死亡事故

火災による隣接家屋の全焼により、夫婦(夫74歳、妻69歳)が死亡した場合の損害額シミュレーションは、以下のとおりです。

【物件損害等】

費用区分損害額
住宅900万円
家財280万円
倒壊家屋の解体・処分135万円
合計損害額1,315万円

【人身損害】

費用区分損害額
死亡逸失利益800万円
慰謝料4,000万円
葬儀費用260万円
合計損害額5,060万円

参考元:日本住宅総合センター|空き家発生による外部不経済の損害額の試算結果(その1)

物件損害等および人身傷害の合計損害額は6,375万円です。

外壁材等の落下による死亡事故

外壁材等の落下により、11歳の男児(小学6年生)が死亡した場合の損害額シミュレーションは、以下のとおりです。

【人身損害】

費用区分損害額
死亡逸失利益3,400万円
慰謝料2,100万円
葬儀費用130万円
合計損害額5,630万円

参考元:日本住宅総合センター|空き家発生による外部不経済の損害額の試算結果(その3)

このように、空き家を放置することで発生した事故により、多額の損害賠償額が請求されることもあります。空き家所有者は、放置するリスクの重要性を再認識し、適切な対策を講じることが急務といえるでしょう。

空き家所有者がおこなうべき対策

空き家所有者がおこなうべき対策は、主に以下の4つです。

  • 空き家の管理意識を高める
  • 定期的な点検・修繕を行う
  • 空き家の解体を検討する
  • 早めのリフォーム・補強で倒壊リスクを減らす

それぞれ見ていきましょう。

空き家の管理意識を高める

空き家所有者としての責任を自覚し、適切な管理を行うことが大切です。空き家の放置は、倒壊や火災、治安の悪化などさまざまなリスクを引き起こします。定期的な見回りや清掃を行うだけでも、空き家の劣化や近隣住民とのトラブルを未然に防げるでしょう。少しずつでも、できることから取り組んでください。

定期的な点検を行う

空き家の劣化を防ぐためには、定期的な点検が欠かせません。屋根や外壁のひび割れ、雨漏り、シロアリ被害などを確認し、必要に応じて早めに補修しましょう。また、換気や水回りの通水を定期的に行うことで、カビや悪臭の発生を防げます。このような点検を怠ると、結果的に修繕費が高額になる可能性があるため、こまめな対応を心がけましょう。

空き家の解体を検討する

老朽化が進んだ空き家は、維持費や管理する負担を考慮し、解体を検討するのも一つの選択肢です。更地にすることで、倒壊リスクをゼロにできるほか、土地活用の自由度も高まります。

ただし、住宅用地の固定資産税の軽減措置が適用されなくなるため、税負担が増える(最大6倍)点には注意が必要です。売却や駐車場としての活用など、解体後のプランを考えたうえで判断することが大切です。専門業者と相談し、最適な選択肢を見極めましょう

早めのリフォーム、補強で倒壊リスクを減らす

空き家を適切に維持するためには、リフォームや補強を早めに行うことが有効です。屋根や基礎部分の強化、耐震補強を施すことで、倒壊リスクを大幅に減らせます。また、外壁や窓の補修を行うことで、外観を保ちつつ、不法侵入や放火のリスクも抑えられます。

将来的に賃貸や売却を検討している場合、早めにリフォームしておくことで資産価値を維持しやすくなるでしょう。空き家は放置せず、適切な対策を講じることが重要です。

空き家の管理を自分でできない場合の対策

空き家の管理を自分でできない場合の対策は、主に以下の2つです。

  • 空き家管理サービスの活用
  • 空き家の売却

空き家所有者は、ぜひ参考にしてみてください。

空き家管理サービスの活用

空き家の管理が難しい場合、専門の管理サービスを利用すると便利です。空き家管理サービスでは、定期的な巡回や清掃、換気、水回りの点検、庭の手入れなどを代行してくれます。サービスの内容や料金は業者によって異なりますが、自分で管理できない場合には有効な選択肢です。専門家に任せることで、空き家の劣化を防ぎ、安全に維持できます

空き家の売却

理が困難な空き家は、売却を検討するのも一つの方法です。不動産会社を利用すれば、市場での売却が可能になる一方で、買い手が見つかるまで時間がかかる場合があります。一方、空き家買取業者を利用すれば、スピーディーな売却が可能。

しかし、市場価格よりも低い買取額になることが一般的です。売却の際は、不動産会社や買取業者のメリット・デメリットを比較し、自分にとって最適な方法を選ぶことが大切だといえるでしょう。早めの判断が、空き家の価値低下リスクを減らす鍵となります。

老朽化した空き家の利活用は可能?

老朽化した空き家は、適切なリフォームやリノベーションを行うことで、新たな価値を持たせて利活用できるでしょう。賃貸住宅として家賃収入を得られるほか、事業としてシェアハウスやカフェ、オフィスとして活用するケースも増えています。

ただし、老朽化の程度によっては多額の修繕費がかかるため、専門家に相談しながら計画を立てることが重要です。また、自治体の補助金を活用すれば、費用負担を軽減しながら利活用の可能性を広げられるでしょう。

空き家の相談先と専門家の活用方法

空き家の管理や利活用、売却について悩んだ際は、専門家に相談しましょう。自治体の空き家相談窓口では、適切な管理方法や補助金などの情報を得られます。不動産会社や空き家活用専門のNPO法人に相談すれば、売却や賃貸の可能性が広がるでしょう。

さらに、弁護士や司法書士に相談すれば、相続手続きや権利関係の整理がスムーズに進みます。状況に応じた専門家を活用し、空き家問題を早めに解決することが重要です。

老朽化した空き家が倒壊する前に有効な対策を行おう!

老朽化した空き家は倒壊の危険性が高いため、適切かつ早急な対策が必要です。築年数の経過や旧耐震基準での建築、シロアリ被害、地盤の弱さなどがリスク要因となり、放置することで自然災害や経年劣化で突然崩壊する可能性があります。

行政代執行が行われた場合や損害賠償責任が発生した場合は、多額の経済的負担が発生するでしょう。さらに、倒壊以外の火災・害虫や害獣被害・治安悪化・資産価値低下などのリスクも無視できません。空き家所有者は、日々の適切な維持管理を心がけつつ、解体・売却・利活用を検討してみてください