立ち退き期限は間近に迫るっているが、どれだけ検索しようと、不動産に問い合わせようと、条件に合うペット可の物件がまったく見つからない。しかしある朝、「もう一回調べてみよう」と検索してみると、初めてみる物件がひとつだけヒットしたという。
「見つけてすぐ問い合わせたら、ちょうど今朝サイトにアップしたばかりだったみたいなんですよ。ペット可で、家賃や広さ的にも条件に合っているし、しかも話をしてみたら、物件オーナーさんはわたしの知り合いと繋がりのある方だったんです!」
とりあえず住む場所は確保できた大村さん。ただし、この物件は店舗にはできないので、店舗物件はまた別で探さなければならない。そんな中であるとき、家の近所を歩いていると、とある町家に目が止まった。以前から「この物件素敵だなあ、こんなところでお店やれたらいいなぁ」と思っていた町家に、偶然大家さんが来ていたのだ。
「話しかけてみたらどうも、大家さんは『この物件を直して誰かに貸したい』と思っていたみたいなんです。それで朝一番に、工務店さんに中を見てもらったけど、『ここはもう無理や。採算取れへんから、諦めた方がいいよ』と言われて途方にくれていたところだったようです。そこにわたしが声かけた、って感じだったんですね。
大家さんは近所にある『コウメノハナレ』ってお宿の改装を見て、『すごいモダンで素敵になって、あそこの工事しているときにうちも紹介して貰えばよかった』と思っていたそうです。
『コウメノハナレ』と聞いて、『おや、それならその業者知ってるぞ!』とすぐに空き家バンク京都代表の鈴木さんに連絡したんです。」
そこからは急ピッチで話が進んだ。空き家バンク京都がその改修を担当して、たまゆらんの新店舗とすることに決まったのだ。築130年、防空壕が残る京町家。京都は岡崎、歴史の重みを感じる新たな物件へと店舗を移して、「おうちごはんcafe たまゆらん」は「SAVON’S BAKE FACTORY TAMAYURAN」として、新たな幕を上げることになったのだ。
京都は三条
築約130年
防空壕が残っている京町家建物のポテンシャルを活かし
旧店舗である『たまゆらん』さんの意志を引き継いで
新店舗に息を吹きこみます『Savon’s bakefactory TAMAYURAN』
始まりです。
看板猫だったサボォンちゃんも
きっと近くで見守っています。 #三条 #カフェ #猫 pic.twitter.com/R2Am8rgRO3— 鈴木 一輝|空き家バンク京都 (@AkiyaBankCEO) September 4, 2021
▲ 改修を担当することになった「空き家バンク京都」の代表・鈴木一輝のTwitterより。新たな店舗名には、天国から見守る看板猫・サヴォンの名前が。
しかし、物件が決まってもまだまだ問題は山積みだ。特に困難なのは、その費用。築130年にもなる京町家だ。調査するごとに問題のある箇所が見つかり、改修費用がかさんでいく。工事費用の見積もりは最初の概算からすでに2倍近くまで膨れ上がり、530万円を上回った。しかし、まだどうなるかは分からない。
さらには、旧店舗で使っていた厨房器具のほとんどはサイズが合わず、すべて買い換える必要があることが判明。新店舗オープンまでにかかる費用はかさみ続け、「物件取得と内外装の工事費用くらいなら、自己資金で賄える」と踏んでいた大村さんの予想を遥かに上回った。
「正直このままいくと一千万近くかかる可能性もあります。前のお店だってそれほど大きく売り上げてたわけでもないのに、『冷静に考えたらすごい怖いことしてるなあ』って思うんです。だけどそれなのに、まったく不安がないんですよ。全然何も怖くない。絶対なんとかなるって。
ここまでも色々あったけど、お店や猫たち、そして周りの人たちがご縁を繋いでくださっている。そのおかげで何とかここまでやってこれた。だからこれからもきっと、大丈夫。何も怖くないんです。」
そう語る大村さんは、常連さんたちに愛され、猫たちを救いご縁をつなぐ場所でもある「たまゆらん」を取り戻すため、クラウドファウンディングの準備に奔走している(※)。
(※追記 : 2021年11月29日20:00より、プロジェクト開始しています!!)
【CAMPFIREによる、たまゆらんのクラウドファウンディングはこちら】
→ 京都、防空壕が残る築130年の町家を引き継ぎ、猫達を守るカフェを復活させたい!
また、今回の改修工事にかける想いについて、大村さんは次のように語っている。
「ただ単純に直せばいいってことじゃなくて、次の世代まで『続けて残す』ためにやらなあかんと思うんです。もしいまちゃんと綺麗に直しておかなかったら、次の人は絶対そんなんやってくんないと思うんですよ。今回で形も決まってしまいますし。
明治時代から130年続いたこの町家。わたしがあと20年やったら築150年です。せっかく改修するのだから、私の世代で終わりにしないで、その後の人たちに繋げて、残していけるようなお店にしたいんです。
京町家も防空壕もやっぱり、貴重なものだと思うんですよ。せっかくの防空壕も、次の人が埋めてしまったりしないように、ちゃんと直して使えるように残したいんです。防空壕はその雰囲気を残すように改修して、できるだけレトロで重みを持たせた雰囲気にしたいなと考えています。
ご近所様に『この店できてよかったね』って言ってもらえるような、ちゃんと意味のある工事がしたいと思っています。」
明治の世から戦時中を経て、いまなお残る築130年の京町家。この家が紡いできた歴史をつなぎ、新たな形で未来へと残していく。そして、身寄りのない猫たちのご縁を、新たな飼い主へとつないでいく ―― そんな「たまゆらん」の再出発が無事叶うようにと、きっと天国からサヴォンくんも見守ってくれているはずだ。
そして、この記事を執筆させて頂いた空き家バンク京都の一同をはじめ、「おうちごはんcafe たまゆらん」を愛するお客さまたち、SNSで大村さんのストーリーを目にしてきた多くの方々もまた、たまゆらんの未来を応援している。
明治の風を感じる築130年の京町家で、気ままに過ごす猫たちの姿を眺めながら、大村さんの想いがこもったおいしいご飯を楽しむ ―― そんな、新しいTAMAYURANの店舗で過ごす日が待ち遠しい。
【CAMPFIREによる、たまゆらんのクラウドファウンディングはこちら】
→ 京都、防空壕が残る築130年の町家を引き継ぎ、猫達を守るカフェを復活させたい!
取材・文 : 充紀 / 写真 : yukina (※ 一部写真は大村さんによる提供です)