そんなたまゆらんのお店でお客さまを楽しませてきたのは、大村さんの愛猫たちだけではない。たまゆらんは、大村さんが預かっていた多くの保護猫たちの仮の住まいにもなっていた。
「オープン当初から、うちの飼い猫5匹のほかに、知り合いから預かっていた保護猫が5匹いたんです。お子さんが急なアレルギーになってしまい、猫と一緒に暮らせなくなってしまったと相談を受けまして。それで、引き取ってくださる里親さんが決まるまで、たまゆらんで預かっていたんです。
そしたら、その5匹はうちのお店に出ていたことで里親さんが決まったんです。店舗で猫たちを見たお客さまだったり、『ネットで見ました』って方だったり。そんなこんなで、お客さまから保護猫の相談を受けることが増えてきたんですよね。」
自らは「別に『保護猫活動してますよ!』ってお店じゃないんです」「ボランティア活動したいと思ってるわけでもないんですよ」と語っている大村さん。基本的には、保護活動のやり方を教えたり、器具を貸してあげたりなどのサポートをすることで、相談主が自分で解決できるようにアドバイスしていると話す。
しかし話を伺っていると、そうは言いつつも、誰にも手を差し伸べられていない弱った子猫を見つけてしまったときなど、いざというときにはついつい動いてしまう大村さんの人柄が、インタビューの中で見え隠れする。
実際、大村さんは保護猫たちのご縁をつなぐイベントを何度も行っているし、里親が決まるまで自身で保護猫の面倒を見ることも多い。2012年7月から2021年現在まで、たまゆらんと大村さんにお世話になった猫たちは総勢500匹以上にものぼるという。
多くの常連さんたちに愛され、保護猫たちのご縁の場所にもなっていたたまゆらん。2020年春、そんなたまゆらんにも他の飲食店と同様、コロナの影響が大きく降りかかった。
第1波による3月の緊急事態宣言が開けた頃から、お店の売上は激減した。換気システムが不十分であったことから、お客さまの安全を優先してテイクアウトオンリーの営業に切り替えたものの、売り上げは伸び悩む。
加えて、営業時間や酒類を置いていない関係で、政府の休業補償金は申請対象外。店を開けているだけで赤字が膨らんでしまう状況により、6月にはやむなくほぼ無期限休業の状態へと追い込まれた。
【大切なお知らせ】
6月1日月曜日よりテイクアウトを含む店舗営業を限定させていただきます。詳しくは、決定次第、再度呟きますが、このままではお店を維持する事が難しくなります。
移転問題もまだ方向性すらままならないのでお店を維持できる道を模索したいと思います。
続報をお待ちください。 pic.twitter.com/QOs8zNsua8
— 【移転先決定】たまゆらん (@cafe_tamayuran) May 18, 2020
▲ たまゆらん公式Twitter、2020年5月18日の投稿。6/1からテイクアウトも含めた店舗営業をほぼすべて休業することが決まった。
それと同時期、別の問題も発生していた。たまゆらんの店舗は賃貸物件。店舗オーナーのもとに、土地開発業者から土地の買収と店舗の立ち退きの話が持ち上がっていたのだ。
「2020年の3月ごろから、うちやご近所さんに土地開発の話が入るようになりました。でも、うちのオーナーさんはとても良くしてくれていて、うちがこのまま頑張っている限りは土地を売るつもりはない様子でした。
でも、周りの物件がだんだんと売買成立して取り残されていく中で、うちはといえばコロナで営業の見通しも立たない状況。2020年はずっとどう転ぶか分からない日々が続いていました。」
売買の件がなければ、コロナ対策のための改装をして、イートイン再開を目指すこともできたかも知れない。しかしどうなるか分からないこの状況では、大きなお金をかけることはできなかった。
でもだからといって、このまま何もしないわけにはいかない。そこで大村さんは、お客さまたちの「ぜひやって欲しい」との声に応え、焼き菓子販売のネットショップを立ち上げた。その名も「SAVON’S SAVE THE CAT BAKE FACTORY TAMAYURAN」だ。
するとこれが、予想以上の反響を得た。毎週のように予約開始から即完売。ネットショップが軌道に乗って、「いざというときのための移転資金も備えられる」と少しほっとできたと語る大村さん。しかし、一息つくことができたのはほんの束の間だった。