“京都”だからこその空き家問題。その実情と空き家バンク京都の試み

“京都”だからこその空き家問題。その実情と空き家バンク京都の試み

「空き家問題」という言葉を聞くようになって久しい。少子高齢社会を背景に、空き家問題は全国的に深刻化し続けている。

現在、空き家の数は全国で850万戸にものぼると報告され、これは全戸数の13.6%にあたる。つまりは、"7戸に1戸以上が空き家"というわけだ(※ データは総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」より)。

空き家問題はこの通り全国的な問題だ。しかし「その中でも京都市は"特異な立場"であり、だからこそ全国に先駆けて空き家問題に取り組むべきだ」と語るのが、空き家バンク京都の代表・鈴木一輝だ。

 
 

そんな京都市の空き家問題について、詳しく話を伺った。

(取材・文 : 「空き家バンク京都」アンバサダー・充紀)

⦅京都独自の背景から解決が難しい京都市の空き家事情⦆

データで見てみると、京都市内の空き家数は約11万戸。割合にすると、全国平均をやや上回る程度の14%。数値を見る分にはそれほど特異な状況とは思えず、全国にはもっと深刻な地域があるように思える。しかし、「実情はそうでない」と鈴木は語る。

鈴木 : 実は、京都市内にはデータに載っていない"隠れ空き家"がかなりの数存在するのです。京都市に昔から長く住んでいらっしゃる方たちの中には、誰も住んでいない家でも「空き家ではない」と主張する方が多いのです。というより、本人は「倉庫として利用している」とか「将来直して住む予定がある」といった考えを持っていて、「だからその家は空き家ではない」と心から思っている方が多い印象です。

また、京都人の文化的な背景もありそうです。京都市に昔から住む方たちは、ご近所の付き合いを大切にされています。でもそのぶん、ご近所の目を気にしやすいところがあるのです。だから、「テナント募集」や「売出し中」という看板をつけることを嫌う大家さんがすごく多いと感じます。これも京都に"隠れ空き家"が増え、活用されにくくなっているひとつの理由かと思います。

データには現れない"隠れ空き家"。京都市の本当の空き家率は20%以上とも、25%以上とも言われているそうだ。さらに、もっと深刻な問題がある。京都市には「どうすることもできず、ただ放置されている」空き家の割合が多いのだ。

鈴木 : 京都の空き家の中には、京都市が「京町屋」として歴史的価値を認めている家屋が多いです。大家さん自身もその価値は感じていて、だから潰すことはできない。でも、老朽化してしまった京町屋を活用できる状態まで再生するにはかなりのお金がかかります。一般的に、京町屋の改修を工務店に依頼すると、費用は1,000万〜1,500万円ほどかかると言われています。

同様に、活用したい人に貸したり売却したりする場合も賃貸料・購入費用が高くなりますし、その上多額の改修費用がかかります。そのため、好立地でもない限り借り手・買い手がなかなか見つからないのです。

京町屋を潰したくはない。ここには、単に「歴史的な建物を保存したい」という気持ちだけではなく、「京都の地で代々受け継いできたものを守りたい」「思い出が残るあの家を潰したくない」といった想いも加わる。

京町屋を潰さずに守っていく。そうであれば、自分で住むにしても、貸し家やテナントにするにしても、空き家問題を解決するには「高額な改修費用」をなんとかしないといけないのだ。

⦅「まずは安く直し、実際に動かし始める」ことが第一歩⦆

現実的に、1,000万円以上の費用をかけてまで「どうしても京町屋にこだわりたい」という人は少ないし、かけたくてもかけられない人だって多い。だからこそ、はじめから完璧を目指さず、「まずは安く直し、実際に動かし始める」ことが大切だと鈴木は語る。

鈴木 : 京町屋の改修・再生には、先ほどもお話しした通り1,000万〜1,500万円くらいかかるのが一般的な相場です。しかしやり方さえ知っていれば、工夫の次第で200〜300万円ほどの費用でも、実際に活用可能な形まで再生することができるんです。

もちろん、京町屋の冷えやすい構造への対策として床暖房を張るとか、現代風の使いやすい構造に内装を作り替えるとか、そこまでの大幅改装は難しいです。でも、必要な補修を施し、床や壁を張り替え、普通に生活できる物件にしたり、お宿やシェアハウス、飲食店など、事業に活用できるだけの物件に仕上げることは十分できます

空き家バンク京都では、手に余らせている空き家をお預かりし、実際に再生してさまざまな形で活用させています。例えば、伏見稲荷大社からほど近くの囲炉裏茶屋『ななころびやおき』さん。

『囲炉裏団子屋 ななころびやおき』さん 改修後

鈴木 : こちらはボロボロの倉庫だった長屋を改修し、和風モダンな店舗に再生しました。こちらの改修にかかった費用は300万円ほどです。

ななころびやおきさんビフォー
『囲炉裏団子屋 ななころびやおき』さん 改修前の倉庫の様子

空き家バンク京都が手掛けた物件は、そのほとんどが300万円以下の費用で改修されており、実際にいまカフェやシェアハウス、お宿などとして利用されている。

空き家バンク京都が運営するシェアハウス『シェアハウス上横縄町

少ない予算の中で工夫して再生することで、その空き家が持ち合わせていた"京町屋らしさ"が残され、それがむしろ物件の魅力ともなっている。そして、そんな京町屋を活用したいという人が、本当はたくさんいるのだと鈴木は語る。

⦅京町屋を活用したい人は確かにいる。適切に"想い"を繋ぐ⦆

京町屋の雰囲気を活かしたギャラリーを作りたい。京都の空き家を使って古民家カフェをやりたい。あるいは、ボロボロの古民家を自分で直して、自分好みにDIYして住んでみたい……。そんな想いを持った方が年々増えてきている。

鈴木 : この10年、20年の間で、日本の社会も、人々の価値観も大きく変わっています。特に昨今のコロナが、人々に大きな価値観の変化を与えていると強く感じます。そんな中で、便利になった今の時代だからこそ昔ながらのものに魅力を感じ、その良さを残していきたいと思う方、伝えていきたいと思う方が増えているんです。でも、費用の問題でその夢に、想いに動き出せない方たちが……。

だから、そんな京都が好きで、京町屋が好きで、きっとその物件を大事にしてくれるだろう方たちに、手に余らせてしまっている空き家を繋いでいきたい。そして、そんな方たちの想いが叶い、それがその先も長く続いていくように、サポートしていきたい。ぼくたち空き家バンク京都はそう願っています。

鈴木は、以前のインタビューでも次のように語っている。

僕たちは、人の “想い” を大事にしています。空き家となってしまった物件には、家族の想いが残されています。「家族との思い出が詰まった家だから」とか「おばあちゃんの仏壇があの家には残っているから」といった理由で動かせないままになっている物件も多いんです。そんな大家さんの想いを繋ぎ止め、次世代に残していく仕事が僕はしたい。

(中略)

だから僕たちは空き家を改修・再生するとき、必ずどこかしら元の家の要素を残します。やはり直せば、全体の姿かたちは変わってしまうかもしれない。でも、どこかに必ずその家の呼吸が生きていて、その家が紡いできた歴史が、思い出が、次の世代へと引き継がれる。そんな想いを持って、僕たちは空き家の再生にあたっています。

「負の遺産」と言われる空き家を再生・活用。京町屋に残された “想い” を次世代に繋ぐ「空き家バンク京都」より

改修をしてしまえば、確かにその家の形は変わってしまう。でも、直すべきところを直して、誰かが使ってあげることで、次の世代に残していけるものがある。

鈴木 : 実際、ぼくたちが物件をお預かりして改修し、シェアハウスとして運営している物件に、以前その家に住んでいた方が「昔の我が家をひと目見てみたい」と訪れてくださったことがありました。内装自体は大きく変わりましたが、かつてのままである間取りの様子、あえてそのまま残した玄関や床の間を見て、かつての自宅の面影を懐かしんでくださいました。

家は、使ってあげてこそ輝きます。使ってあげるからこそ残すことができ、その家に残されたものも想いも、次の時代へと繋がっていくのでしょう。

⦅京都から全国へ、空き家活用のモデルケースを⦆

空き家バンク京都が運営するお宿『Takasegawa suites

少子高齢社会が進み続け、しかも住宅の供給過多となっている日本では、これからも空き家が増えていくのは必然だろう。

でもそれと同時に、「地方の良さ」や「昔ながらのものの良さ」も見直され始めている。また、リモートワークや多拠点生活など新しい働き方が生まれ、シェアハウスやコワーキングスペースなどといった「空間をシェアして利用する」新しい文化も一般的なものとなりつつある。これらは空き家の有効活用の方法としても非常にマッチするものだろう。

鈴木 : これから何か新しく事業を始めたち方にとって、空き家は魅力的な選択肢なんです。朽ちてしまった京町屋を再生して活用する場合、固定資産税などがかなり安く済みますし、行政の補助金も受けられます。大きな初期投資さえ避けられれば、基礎体力のある事業が作れるんです!

ぼくたち空き家バンク京都は自分たちで実際に改修・再生を手がけ、シェアハウスやお宿など事業を運営してきました。低予算で改修するノウハウも持っています。

だから、「空き家で何かをやってみたい」という方には改修から運営まで一通りのサポートをすることができるんです。もちろん、費用面もできる限りの協力をさせていただきます

そうして想いを持った方が空き家を再生し、やりたかったことを実現する。空き家を活用することで、歴史ある京町屋が息を吹き返し、次の時代へと繋がっていく。

空き家バンク京都の活動はまだまだ小さなものでしかありませんが、ぼくたちの活動が空き家の再生利用のモデルケースとなり、京都中、日本中に広がっていくようになれたらな、と思っています

(取材・文 : 「空き家バンク京都」アンバサダー・充紀)

この記事書いた人

充紀

職業フリーライター
『空き家バンク京都』のシェアハウスに入居中
シェアハウスに住むのは東京・神奈川に続きこれで三軒目
趣味は散歩・筋トレ・神社巡り・美術館巡りなど。伏見稲荷大社によく出没
Webライターとしては主にヘアケア・開業・シェアハウス関連の記事を執筆