“京都で空き家を利用したい人”と“京都の空き家を貸したい人”とを繋ぐ「空き家バンク京都」。空き家バンク京都はどんな考えのもと、どんなことをしているのか。代表の鈴木一輝に話を伺った。
空き家バンク京都はどんなことをしているの?
ーまず、空き家バンク京都はどんなお仕事をしているのか聞かせてください。
鈴木 : 誰かが手に余らせてしまっている空き家を買うか借りるかして、それを改修・再生し、実際に活用するところまで動かす。これが空き家バンク京都の仕事です。活用とは人が住む、または事業に使う、ということですね。ただ「買って売るだけ」とか「改修するだけ」ではなくて、再生した空き家の「そののち」までしっかり面倒をみることを大切にしています。
また、僕たちが主体的に活用していく場合だけでなく、僕たちがサポートに回ることもあるんです。例えば、「京町屋を事業に活用したい」という想いを持った方のご相談を受けることがあります。そんなときは利用者さんの主体性を大事にして、その想いが実現できるように僕たちがサポートをしていきます。
具体的には、最近だと「自分で直すところからDIYして、自分の思い通りの家や古民家カフェを作ってみたい」なんて方が増えています。でも、水回りや電気配線まで全部自分でやるのは難しいですし、改修は普通にやるとかなりお金がかかってしまいますよね。
そこでうちなら、費用を抑えて改修するスキルやノウハウを提供できますし、信頼できる業者さんと繋ぐこともできます。また、その後の店舗経営の相談・サポートもできるわけです。
とはいえ、ゴールはいつも同じで空き家がきちんと再生され、実際に活用されるところまで持っていくことです。大家さんや利用者さんのそれぞれが持っている “想い” を大事にして、柔軟な対応を心掛けています。
― なるほど。では、具体的にはどんな事業をされているのでしょうか?
鈴木 : まずは空き家の改修・再生ですね。これだけを請け負うこともあります。シェアハウスやお宿、ゲストハウスの運営・管理。そのほか、一戸建てやテナント物件の賃貸も行っています。あと、「宿撮(やどさつ)」というサービスもありますね!
– 「宿撮」とは?
鈴木 : 雰囲気ある京町屋のお宿を利用して、宿泊はもちろん撮影スタジオとしても好きに使っていただけるサービスです。また、お寺さんとの提携もしているので、境内をお借りした撮影もできます。
― おお、これはすごい!
鈴木 : 本格的なスタジオ撮影だとそれなりの費用がかかってしまいますが、「宿撮」ならリーズナブルにご利用いただけます。特にコスプレイヤーさんたちのニーズにマッチしていて、とてもご好評いただいているんです!ちなみに、まだ未着工の空き家を利用して廃屋撮影することもできますよ。
「負の遺産」と言われる空き家に価値を生み出す
鈴木 : 空き家って、社会的には「負の遺産」と言われているんです。空き家の改修・再生には通常1,500万円くらいかかってしまうので、活用したくてもなかなか難しいのが現実です。
でも、DIYをしたい方や宿撮の利用者さんたちからすれば、”廃屋となってしまった空き家” そのものに価値があるんです。それをうまくマッチングしてあげることによって、本来「負の遺産」である空き家に価値を生み出すことができる。だから、ご家族の想いやお金の問題などで改修できない場合でも、このようにうまく活用することができるんです。
空き家問題の現状と解決の難しさ
― 『負の遺産』である空き家に価値を生み出す。これは社会的にも大きな役割ですよね。
鈴木 : その通りです。空き家問題はいま全国で大きな課題となっています。特に京都の場合、「歴史ある京町屋を壊してしまうのは忍びない」といった想いなど、京都独自の文化的背景があるため余計に空き家問題が解決しにくいんです。京都市内には「京都市北区の全戸数」に相当する約11万戸もの空き家があると言われています。何もできないまま、歴史ある京町屋が日に日に腐朽し続けています。僕は、そんな京町屋が取り壊されてしまう前に、一軒でも多く改修し、未来に残していきたいんです。
それを実現するためには、“ただの空き家バンク” じゃだめなんです。全国には国土交通省や大手企業などが行なっている「空き家バンク」がたくさんありますが、「利用者が求めるサービスをきちんと運用できている空き家バンク」はほとんどないのが現状です。
利用者が空き家バンクに求めているのは「たくさんの空き家物件がみれて、安く手に入り、それを活用できる」ということだと思います。でも、現状はあまり多くの物件を保有できていない空き家バンクが多く、保有しているのも「改修済みで高額」または「ぼろぼろで改修にお金がかかりすぎる」物件ばかりなんです。
鈴木 : 先ほど話した通り、空き家の改修・再生には通常1,500万円ほどかかります。それを出せる人も、それだけのお金を出してまで空き家にこだわりたい人もなかなかいない。だから空き家問題の解決は難しいんです。
また、空き家は状態や立地次第では数十万円で購入することもできますが、「買ったはいいけど、結局どうにもできない」なんてことも多いです。現状の空き家バンクは「ただ売るだけ、貸すだけ」のところが多く、実際に改修するまでにどれだけお金がかかるのか、またどこで何をすればいいのかまで教えてくれません。
実際、僕たちが三条に保有している物件のひとつは、東京の方が「安かったから買ってみた」はいいものの何も手がつけられず、結局そのままの状態で僕たちの手に渡ったものです。
空き家バンク京都の強みと課題。そしてこれから
鈴木 : このような問題を解決したい。そのために僕たちは現在、「空き家バンク京都」という名前とは違った事業ばかりを先行させています。でもこれは必要なステップなんです。
自分たちで工務店のようなことからやってみて、その中で信頼できる大工さんや設計士さん、水道屋さん、電気屋さんなどと繋がりを持つ。さらに自分たちで空き家をさまざまな形に活用して、実践例とノウハウを蓄積する。その中で、いかに費用を抑えて改修・再生するかにこだわる。
だから僕たちは、通常よりもかなり安く空き家の改修・再生ができますし、そのノウハウを提供することもできます。さらには店舗など事業をやりたい人へのサポートまでできます。
現状は「空き家バンク京都」の名前に相応しいサービスはあまりできていないのが事実ですが、これからが本当の意味で「空き家バンク京都」になっていくステップなのかな、と思っています。
僕たちが大事にしている想い
― 鈴木さんが空き家・京町屋にかける想い、伝わってきます。そんな空き家バンク京都が大事にしていることはなんでしょうか?
鈴木 : 僕たちは、人の “想い” を大事にしています。空き家となってしまった物件には、家族の想いが残されています。「家族との思い出が詰まった家だから」とか「おばあちゃんの仏壇があの家には残っているから」といった理由で動かせないままになっている物件も多いんです。そんな大家さんの想いを繋ぎ止め、次世代に残していく仕事が僕はしたい。
ちょっと余談なんですが、先日家族で作っているグループLINEに母からメッセージがありまして、「一輝が昔使っていた勉強机があるんだけど、誰か使わないかい」って言うんです。僕からしたら「そんなのもう要らないでしょ」と思うような机なんですが、母からしたらやはり大事な思い出が詰まったものなんですよね。このように、どの家にもそこに住んだ人たちの思い出がたくさん詰まっているはずなんです。
鈴木 : だから僕たちは空き家を改修・再生するとき、必ずどこかしら元の家の要素を残します。やはり家を直せば、全体の姿かたちは変わってしまうかも知れない。でも、どこかに必ずその家の呼吸が生きていて、その家が紡いできた歴史が、思い出が、次の世代へと引き継がれる。そんな想いを持って、僕たちは空き家の再生にあたっています。
鈴木 : そして、そんな僕らの想い・考えと同じ方向性を持った人と関わっていきたいと思っています。例えば、僕らのシェアハウスに住んでくださっている方々もそうです。シェアハウスって、おそらく一生そこに住むつもりで入居される方は少ないと思います。だけど、一時的にでも関わる以上、この場所がその人にとってなにか価値のある場所、思い出の残る場所になってほしいし、ステップアップの場所になってくれたらな、と思っています。
その中でもし「古民家でカフェをやってみたい」とか「居酒屋をオープンしたい」とか、「フリーランス専用のシェアハウスをやりたい」など僕たちと重なる想いを持った人がいたら、ぜひ一緒に仕事をしたいと思っています。実際、いまインタビューや記事を書いてくださっている充紀さんもそうですし、うちで作業スタッフとして働いてくれている入居者さんもいるんです。
また、先ほど紹介した三条の物件は「DIYでギャラリーを作りたい」という想いを持った京都工芸繊維大学の学生さんが主体となって、一緒に再生を進めています。
鈴木 : 人の “想い” を大事にして、直すべきものは直し、残すべきものは残して次世代へと繋ぎたい。空き家バンク京都はもともと、「百代家」という屋号でスタートしました。「百代」は昔の言葉で「一生」を意味しています。百代って途方もない期間ですが、まさに僕は自分たちが携わった京町屋、作ったお宿やお店たちが百代続くようにと願って日々仕事に取り組んでいます。
だから僕たちがオープンした、サポートしたお宿やお店は意地でも潰したくない。そのために、徹底的に初期費用とランニングコストを抑える。京町屋ならそれができるし、僕たちならそれができる。
京都の歴史と文化、そして住んできた方々の “想い” が詰まった京町屋を、一軒でも多く、より良い形で次世代に残していきたい。そう願っています。
(取材・文 : 「空き家バンク京都」アンバサダー・ライター 充紀)